国籍喪失と戸籍
国籍喪失とは、日本人(日本国籍を有する人)が、以下の理由で日本国籍を失うことを言います。
- 自分の意思で、日本以外の国籍を取得した時(国籍法11条1項)
- いわゆるハーフの方で、日本国籍以外の国籍を選択した時(国籍法11条2項)
- いわゆるハーフの方で、日本の国籍を選択しない時(国籍法15条)
- その他の事情(国籍法16条)
参考:法務省国籍Q&AのQ12
日本の国籍を失った人は、国籍を失ったことを知ったときから1か月以内に国籍喪失の戸籍届をしなければならないとされています。(戸籍法103条、日本国外に住んでいる場合は3か月以内)
日本人ではなくなったので、国籍喪失の届以降は、戸籍になにかが記録されることはありません。
しかし、国籍喪失の届で日本国籍を失うわけではなく、上記の1~4の時点で日本国籍は失われています。
なお、婚姻や親の外国籍の取得によって外国籍を自動的・反射的に取得できる国もありますが、1の場合と違って、自らの意思で外国籍を取得したわけではないので、日本国籍に影響はありません。
国籍喪失後の婚姻、出生、養子縁組等の戸籍手続
ここで困ったことが起こることがあります。国籍を喪失したことを役所が知りえないので、国籍喪失後であっても国籍喪失届が提出されるまでは、他の戸籍手続きは受理されます。
しかし、すでに日本国籍がないので、国籍喪失日以降に受理された婚姻や出生、養子縁組等すべての戸籍手続が(戸籍記録上)無効になり、日本国籍喪失した日以降の戸籍の記録が誤ったものになります。(戸籍の記録が無効だっただけで、婚姻や出生自体は否定されません。なお養子縁組については適用される法律が変わることがあるので個別に調査する必要があります)
たとえば、国籍喪失日以降に転籍をして別の市区町村に戸籍を移していた場合、転籍で作られた新しい戸籍は無効で、転籍前の戸籍が正しい戸籍になります。
なお、国籍喪失の届を提出後、国籍喪失による戸籍の訂正がされる前に子どもの出生や離婚の届等の新しい戸籍の届出をする場合、戸籍訂正が終わるまで出生や離婚の記録ができません。場合によっては、届を受理できない状態になることもあります。
国籍喪失と戸籍の訂正
このような国籍喪失日以降に戸籍届が受理され、その後国籍喪失届が提出された場合、国籍を喪失した時点の戸籍に、国籍喪失した旨の記録がされます。
上記の例えで言うと、転籍前の戸籍に国籍喪失の記録がされますが、転籍後の戸籍には国籍喪失の記録はされません。
また、国籍喪失届の記録がされた後も、国籍喪失日以降の戸籍の記録はそのまま残ります。とはいっても、そのままにしておくことはできないので、国籍喪失日以降、国籍喪失届日までの間の戸籍の記録は、国籍を喪失したこと理由に消除、訂正しなければなりません。そして、この消除、訂正の方法は二つあります。
- 市区町村の戸籍担当部署が、法務局の許可を得て、戸籍を訂正する方法
- その戸籍に記録されている人又はその戸籍の利害関係人が、裁判所の許可を得て、戸籍を訂正する方法
1の方法は、国籍の喪失の事実が戸籍上強力に証明できるので、市区町村の権限で戸籍を訂正することが可能です。この場合、市区町村が管轄法務局の許可を得ることになります。
2の方法は、他の戸籍訂正と同様に裁判所に戸籍訂正の許可申立をして許可を得てから、市区町村に戸籍訂正申請をします。本来、こちらの方法でするべきですが、日本国外に住んでいて日本で裁判所手続きをすることができない等、特別な事情がある場合、1の方法を選べたようです。しかし現在は1の方が一般的なのかもしれません。
国籍喪失後の婚姻と戸籍訂正
国籍喪失後に日本人(日本国籍有する人)と婚姻した場合、戸籍の訂正が必要になります。あわせて配偶者の戸籍も訂正しなければなりません。
筆頭者ではない配偶者が国籍を喪失していた場合
まずは簡単な方からです。筆頭者ではない配偶者が日本国籍を喪失していた場合、その戸籍から配偶者の記録を消除して、筆頭者の配偶者の氏名を訂正します。
その他に日本国籍を喪失した配偶者の婚姻前の戸籍と筆頭者の婚姻前の戸籍を訂正する必要があります。
この戸籍に子供がいる場合は、その子供の父母の氏名も訂正することになります。
戸籍の筆頭者が日本国籍を喪失していた場合
この場合は、手続きが複雑になります。筆頭者が日本国籍を有する人ではないのでその戸籍全体を消除し、その後、日本国籍を有する配偶者を筆頭者とする新しい戸籍を作り、筆頭者と配偶者の婚姻前の戸籍も訂正します。また、この戸籍に子供がいる場合は、子供の記録を新しい戸籍に移します。
これは訂正の大まかな流れであって、管轄によって細かい戸籍の処理が変わることもあります。現在は統一的な処理になっているようです。
また、いずれの場合であっても、日本人と外国人が日本の方式で婚姻したことになるので、婚姻自体が無効になるわけではなく、戸籍の記録の仕方だけが不適切なので訂正することになります。
戸籍訂正後の氏と氏の変更
日本国籍を喪失後、婚姻で筆頭者になり、その後、国籍喪失の届を提出して、戸籍訂正をした場合、配偶者である日本人は外国人と婚姻したことになるので、婚姻で氏は変更されず、日本の戸籍上婚姻前の氏に戻ることになります。
しかし、国籍喪失届以前は筆頭者の氏であったので、戸籍上の氏を元のままにしたいと考えるのが普通だと思います。この場合、選べる氏は以下の3とおりだと考えます。
- 元の氏のカタカナ書き
- 元の氏
- 外国籍を取得した配偶者の当該外国での氏
いずれの場合も氏を変更することはあまり難しくありませんが、家庭裁判所の許可を得て、氏の変更届を市区町村に提出する必要があります。
1番目の方法は、通常の国際結婚後の氏の変更の場合と全く同じです。
2番目の方法は、日系外国人と国際結婚をした場合で、相手の日系外国人の漢字表記がはっきりしている場合と同様ですが、これよりもずっと簡単です。
3番目の方法の場合が少し説明が必要だと思います。外国籍を取得する際に、その国のルールに従った氏名を名乗る必要がある国もあります(ありました)。この場合は、氏の変更前の戸籍訂正時点で配偶者の氏名をあわせて新しい氏名に訂正しておく必要があります。
また外国籍を取得した国が血統主義を採用している国ですと、日本の戸籍上、子供について、二重国籍の問題が新たに発生する可能性があります。
国籍喪失後婚姻以外の戸籍届と戸籍の訂正
婚姻以外の戸籍の手続きも、同様に戸籍記録が無効ですので、訂正をする必要があります。特に戸籍の届出で身分関係が変動する手続きや死亡届は大変です。
例えば、国籍喪失後に死亡届が提出されている場合ですと、相続の適用法が変わってくることもあります。養子縁組も同様です。
まとめ
手続きとしては、戸籍の手続き上、記録上の誤りを正すため戸籍訂正手続きをする必要がありますが、それほど難しいわけではありません。
しかし、国籍喪失後、国籍喪失届提出までの間にされた戸籍手続きの種類や、国籍を取得した国、居住国によっては、予期しない問題が発生するかもしれません。
可能であれば、国籍喪失後、すみやかに国籍喪失届を提出されるのが良いと思います。
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