国際結婚をした日本人配偶者が、外国人配偶者の氏へ変更したいと考えることがあります。戸籍に記録された外国人配偶者の氏へ変更する場合には、婚姻後6か月以内であれば、戸籍法107条2項の「外国人との婚姻による氏の変更届」によって変更できます。
一方で、外国人配偶者が日本の住民票に通称を記録している場合、日本人配偶者が、その住民票上の通称氏へ戸籍上の氏を変更したいと考えることがあります。
しかし、外国人配偶者の住民票に記録された通称氏へ変更する場合は、婚姻後6か月以内であっても戸籍法107条2項の届出では変更できません。この場合、家庭裁判所の許可を得て、氏の変更を届け出る必要があります。
この記事では、外国人配偶者の住民票に記録された通称氏へ変更する手続について、必要な手続きの流れを整理します。
外国人配偶者の住民票に記録された通称氏へ変更する手続です
日本在住の外国人住民は、住民票に本国名とは別に通称が記録されている場合があります。
この場合、日本人配偶者の戸籍の氏を、外国人配偶者の住民票に記録された通称の氏へ変更することができます。
もし、外国人配偶者が日常生活で通称を名乗っていて住民票に記録されていない場合や、住民票の通称氏を日本人配偶者の氏へ通称を変更する場合は、住所地の市区町村で相談してください。
なお、外国人配偶者の氏を変更する場合は、本国法の手続きとなるので、本国の役所や領事館で手続きをする必要があります。
通称氏へ変更するには家庭裁判所の許可が必要です
外国人と婚姻した日本人は、婚姻の日から6か月以内であれば、戸籍法107条2項の「外国人との婚姻による氏の変更届」によって、家庭裁判所の許可を得ずに外国人配偶者の氏へ変更できます。
この届出では、住民票に記録された通称氏に変更することはできず、日本人配偶者の戸籍の身分事項欄に記載された外国人配偶者の氏のとおりにのみ変更することができます。
参考:昭和55年11月1日民二第5500号民事局長通達
戸籍法107条2項による外国人配偶者の称している氏に変更する旨の届出は、その氏が身分事項欄に記載された外国人配偶者の氏と同一であることを要するが、本国法によって子に承継される可能性のない部分を除いた届出は受理して差し支えない。
そのため、日本人配偶者の戸籍の氏を、外国人配偶者の住民票に記録された通称氏へ変更するには、婚姻後6か月以内であっても、家庭裁判所の許可が必要です。
通称氏への変更で問題になる「やむを得ない事由」
外国人配偶者の住民票に記録された通称氏へ変更するには、戸籍法107条1項の手続をします。この場合、家庭裁判所の許可を得るために、氏を変更することについて「やむを得ない事由」が必要になります。
この「やむを得ない事由」については、通称氏への変更の場合、次の章で取り上げる裁判例のように、外国人配偶者の住民票に通称氏が記録されていること、家族の日常生活でその通称氏を使用していることなどを踏まえて、氏の変更が認められています。
実際には、住民票に記録された通称氏への変更については、許可できない事情がある場合を除き、以下のポイントを押さえれば、比較的許可を得やすいと考えられます。
通称氏への変更では、次のような点が確認されます。
- 外国人配偶者の住民票に通称氏が記録されていること
- 夫婦や家族の生活の中で、その通称氏を使用していること
- 戸籍上の氏と日常使用している氏が異なることで不便があること
- 将来も家族の氏として通称氏を使用する見込みがあること
ただし、重視される事情は、婚姻からの期間によって変わります。婚姻直後であれば、今後、夫婦や家族の氏として通称氏を使用する必要性を説明することになります。一方で、婚姻後に長期間が経過している場合は、日常生活で通称氏を使用してきた実態や、それを示す資料が重要になります。
外国人配偶者の住民票に記録された通称氏
通称氏への変更を検討する場合、外国人配偶者の住民票に通称が記録されていることが前提になります。ここでいう通称氏は、外国人配偶者が日常生活で名乗っているだけの氏ではなく、住民票に通称として記録されている氏を指します。
そのため、住民票に通称が記録されていない場合は、すぐに家庭裁判所で日本人配偶者の氏の変更を申し立てるのではなく、まず市区町村で通称を記録できないか確認する必要があります。
家族の日常生活での通称氏の使用実態や生活上の不便
外国人配偶者の住民票に記録された通称氏へ変更する場合、その通称氏を家族の日常生活でどのように使用しているかがポイントになります。外国人配偶者だけが通称氏を使用しているのではなく、日本人配偶者や子どもを含めた家族の生活の中で、その通称氏が使われているかが重要です。
婚姻直後では、まだ日本人配偶者が通称氏をほとんど使用していない、あるいは短期間しか名乗っていないこともよくあります。この場合は、今後、夫婦や家族の氏としてその通称氏を使用する必要性を説明することで十分な場合もあります。
一方で、婚姻後に何年も経過している場合は、これまで通称氏を使用してきた実態が重要になります。日常生活では通称氏を使用しているにもかかわらず、戸籍上の氏が異なることで、勤務先、学校、地域生活、各種手続などで説明が必要になることがあります。
そのため、家族の日常生活でその通称氏を使用していることや、戸籍上の氏と日常使用している氏が異なることによる不便を、具体的に資料で示すことが重要です。
通称氏への変更に関する裁判例
外国人配偶者の通称氏への変更については、平成の初期頃までは、外国人配偶者の本来の氏ではなく通称氏へ変更することに慎重な判断もありました。
その後の裁判例では、外国人配偶者の住民票に通称氏が記録されていることや、夫婦・家族の生活でその通称氏を使用していることなどを踏まえて、氏の変更を認めたものが見られるようになりました。
以下では、婚姻後長期間が経過していた事例と、婚姻直後に申立てをした事例に分けて、代表的な裁判例を確認します。
長期間の使用実態が考慮された裁判例
婚姻後、長期間にわたって外国人配偶者の通称氏を使用している場合は、その使用実態が重要な要素になります。
平成9年の東京高裁決定では、婚姻以来、公的に必要な場合を除いて外国人配偶者の通称氏を使用し、子どもも学校生活や日常生活で通称氏を使用していたことなどが考慮されています。
また、平成9年の大阪高裁決定では、申立て後に外国人配偶者が死亡した後も、日本人配偶者や子どもが従前どおり通称氏を称した生活を継続していたことが問題になりました。配偶者が死亡している点で特殊な事案ですが、通称氏が家族の生活の中で安定して使用されていたことを重視した裁判例として参考になります。
婚姻後10年以上にわたり通称氏を使用していた事例
東京高裁平成9年3月28日決定では、韓国籍の夫と婚姻した日本人配偶者が、婚姻時に戸籍法107条2項の届出により夫の本来の氏へ変更していたものの、婚姻以来、夫の通称氏を使用してきた事情がありました。
この事案では、子どもも学校生活や日常生活で通称氏を使用していたこと、戸籍上の氏を称することによる違和感や不便があったこと、子どもの福祉や利益にも適うことなどが考慮され、氏の変更が認められました。
参考:東京高裁平成9年3月28日決定
抗告人は、韓国国籍を有する夫Aとの婚姻の届出をするに際して、戸籍法107条2項の規定による届出をして、その氏を夫Aの本来の氏に変更することにしたが、婚姻以来、公的に必要な場合以外には、夫Aが通称氏として使用していた通称氏Bを称し続けていた。
抗告人は、夫Aとの間に複数の子をもうけたが、子どもらにも学校生活や日常生活において専ら通称氏Bを使用させてきた。
抗告人は、夫Aの本来の氏を称することによって外国人と間違えられることが多く、夫Aと離婚した後にあってはそのことに一層の違和感や不便を覚えていること、抗告人の氏を通称氏Bに変更することは、前記のような経緯に鑑みて、抗告人が親権者となっている子どもらの福祉や利益にも適うところであることを認めることができる。
右事実によれば、抗告人が夫Aの本来の氏を称し続けなければならないとすることは社会生活に重大な支障をもたらし、その使用の継承を強制することは社会観念上相当ではないと認められ、既に通称氏Bを使用して10年以上を経過していることよりすれば、抗告人の氏を夫Aの本来の氏から通称氏Bに変更することには戸籍法107条1項にいうやむを得ない事由があるものということができるから、これを許可すべきものとするのが相当である。
外国人配偶者の死亡後も通称氏の使用継続が認められた事例
大阪高裁平成9年5月1日決定では、韓国籍の夫が出生以来通称氏を使用しており、日本人配偶者も婚姻後その通称氏を使用し、子どもも同じ通称氏を名乗っていた事案が問題になりました。
この事案では、申立て後に夫が死亡していますが、日本人配偶者と子どもを含む生活が従前どおり通称氏を称して継続されており、その生活が安定したものと認められる限り、通称氏への変更を認める判断に影響しないとしました。
参考:大阪高裁平成9年5月1日決定
抗告人は、韓国籍の夫Cと婚姻届出をし、同人との間に子をもうけたこと、夫Cは、わが国への特別永住資格を有する外国人で、出生以来通称名Dを使用していたので、抗告人も婚姻以後通称氏Dを使用し、子も出生後通称として通称氏Dを名乗っていることが認められる。
在日韓国人のように在日外国人が永年にわたり日本名を称しそれが社会的に定着している場合にあっては、それをわが国における実氏名と同様に扱うことにも社会生活上の合理性があるといえるから、その者と婚姻した日本人が外国人配偶者の通氏を称することを希望するときは、上記法の趣旨に照らして、その希望は十分に尊重されてしかるべきである。
その理は、氏の変更許可の申立てがされた後に外国人配偶者が死亡した場合であっても、日本人配偶者やその子を含む生活が従前通り外国人配偶者の通氏を称して継続されており、それが安定したものと認められる限り変りはないものというべきである。
こうした場合においては、抗告人が亡夫の通氏に変更することによる呼称秩序への影響は小さいから、上記法の趣旨に基づき、亡夫の通氏を称した生活を維持しようとする抗告人の社会生活上の便宜に配慮して、戸籍法107条1項所定の「やむを得ない事由」があるものと解するのが相当であって、本件申立ては認容すべきである。
婚姻直後の申立てで認められた裁判例
通称氏への変更は、婚姻後に長期間その通称氏を使用してきた場合だけに認められるものではありません。婚姻直後であっても、外国人配偶者の通称氏が社会生活上定着していることなどを踏まえて、氏の変更が認められた裁判例があります。
福岡高裁平成22年10月25日決定では、在日韓国人である夫が出生以来、通称氏を継続して使用しており、妻が婚姻後間もない時期に、夫の通称氏へ変更することを求めました。また、妻は妊娠中であり、子どもの出生前に氏を夫の通称氏へ変更したいという事情もありました。
この決定では、外国人配偶者が通称である日本名を永年にわたって使用し、社会生活において定着している場合には、実氏名の場合と同様に取り扱い、外国人配偶者の通称に従った氏の変更について、戸籍法107条1項の「やむを得ない事由」があると判断しています。
参考:福岡高裁平成22年10月25日決定
抗告人は、日本国籍を有する者であるが、平成22年、韓国籍の夫Aと婚姻した。
夫Aは、日本で出生し、以来、継続して通称である通称氏Bを使用しており、外国人登録証明書上も本名と通称名が表示され、抗告人との婚姻に伴い、抗告人の戸籍の配偶者欄には夫Aの本名が記載された。
抗告人は、現在妊娠中であるが、子どもの出生前に氏を夫Aの通称氏Bに変更して、社会的に不自由がなく生活していくため、家族とも協議したうえ、本件申立てに及んだ。
外国人配偶者が通称である日本名を永年にわたって使用し、社会生活において、その通称が定着していると認められるときには、これを実氏名の場合と同様に取り扱い、外国人配偶者の通称に従った氏の変更は、戸籍法107条1項所定の「やむを得ない事由」が具備されているとして、これを許可すべきものと解するのが相当である。
戸籍法107条2項は、同条1項所定の「やむを得ない事由」が典型的に存在する場合として、同条1項の特則として置かれた規定であると解されるから、外国人と婚姻をした者が、家庭裁判所の許可を得て、配偶者の通称名に変更することを制限する趣旨であるとは認められない。
通称氏へ変更する手続きの流れ
外国人配偶者の住民票に記録された通称氏へ変更する場合も、手続きの基本的な流れは、戸籍法107条1項の通常の氏の変更手続きと変わりません。
通称氏への変更では、申立ての前提として、外国人配偶者の住民票に通称が記録されていること、家族の日常生活でその通称氏を使用していることなどを確認します。
戸籍と外国人配偶者の住民票の確認
申立ての前に、家族全員の住民票を確認して、外国人配偶者の通称氏を確認します。
ここで、住民票に通称が記録されていない場合は、市区町村に連絡をして、通称を記録できるか確認してください。
家庭裁判所への氏の変更許可申立て
通称氏へ変更する場合でも、家庭裁判所へ氏の変更許可を申し立てます。申立書では、住民票に記録された通称氏へ変更したい理由や、家族の日常生活での使用実態などを説明します。
また、日本人配偶者の戸籍全部事項証明書と外国人配偶者の通称が記録されている住民票が必須の添付書類になります。
許可後の市区町村への氏の変更届
家庭裁判所で氏の変更が許可され、審判が確定した後は、市区町村へ氏の変更届を提出します。届出が受理されることで、日本人配偶者の戸籍の氏が変更されます。
氏の変更届の必要書類や届書の書き方は、許可後の届出手続の記事で確認できます。
まとめ
外国人配偶者の住民票に通称が記録されている場合、日本人配偶者の戸籍の氏を、その通称氏へ変更できる場合があります。ただし、ここでいう通称氏は、外国人配偶者が日常的に名乗っているだけの氏ではなく、住民票に通称として記録されている氏を前提にします。
住民票に記録された通称氏へ変更する場合は、戸籍法107条2項の「外国人との婚姻による氏の変更届」では変更できません。戸籍法107条1項の手続として、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
実際の申立てでは、外国人配偶者の住民票に通称氏が記録されていること、家族の日常生活でその通称氏を使用していること、戸籍上の氏と日常使用している氏が異なることによる不便などを説明します。必要書類を確認したうえで、家庭裁判所への申立て、許可後の氏の変更届という流れで進めます。
よくある質問
婚姻後6か月以内であれば、外国人配偶者の通称氏へ届出だけで変更できますか?
いいえ。外国人配偶者の住民票に記録された通称氏へ変更する場合は、婚姻後6か月以内であっても、戸籍法107条2項の「外国人との婚姻による氏の変更届」では変更できません。戸籍法107条1項の手続として、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
外国人配偶者が日常生活で通称を使っていれば、その通称氏へ変更できますか?
外国人配偶者が日常生活で通称を使用している場合でも、まずは、その通称を住民票に記録できるかを住所地の市区町村で確認することになります。この記事では、外国人配偶者の住民票に通称が記録されている場合を前提に説明しています。ただし、住民票に記録されていない場合でも、日本人配偶者も長期間その通称氏を名乗っているなどの事情があるときは、氏の変更が許可される余地があります。
婚姻直後でも、外国人配偶者の通称氏へ変更できますか?
婚姻直後であっても、外国人配偶者の住民票に通称氏が記録されており、その通称氏を夫婦や家族の氏として使用する必要性を説明できる場合には、認められることがあります。婚姻後の場合は、これまでの使用実態だけでなく、今後家族の氏として使用する必要性を説明することになります。
外国人配偶者の通称氏へ変更する申立てでは、どのような書類が必要ですか?
基本となる添付書類は、日本人配偶者の戸籍全部事項証明書と、外国人配偶者の通称が記録されている住民票です。これに加えて、通称氏を家族の日常生活で使用していることを示す資料を求められることがあります。
子どもも外国人配偶者の通称氏を使っている場合は、判断に影響しますか?
子どもを含めた家族の日常生活で、外国人配偶者の通称氏が使用されていることは、通称氏への変更を希望する事情として説明しやすい要素になります。学校生活や日常生活で子どもも同じ通称氏を使っている場合は、その使用実態を資料で示すことが重要です。子どもの氏だけを外国人親の通称氏へ変更する場合は、外国人親の通称氏へ、子供の日本の戸籍上の氏を改姓するための手続きも確認してください。
家庭裁判所で許可された後は、何をすればよいですか?
家庭裁判所で氏の変更が許可され、審判が確定した後は、市区町村へ氏の変更届を提出します。氏の変更届の必要書類や届書の書き方は、氏の変更届の手続き|許可後に必要な書類と届書の書き方を司法書士が解説で確認できます。