戸籍上の名前と日常で用いる通称が異なることで不便を感じている方にとって、改名は生活を整える大切な一歩になり得ます。
改名が認められるかは、通称をどれだけ広く・一貫して・長期間使ってきたかが大きな判断要素の一つです(いわゆる「通称の永年使用」)。ただし、期間だけでなく社会的な通用性を裏づける具体的な証拠と、筋の通った説明が不可欠です。
本記事では、永年使用が認められるための条件・証拠の集め方・期間の目安を、司法書士の視点でわかりやすく解説します(ほかの改名理由に触れる関連情報への案内も含みます)。
通称使用を理由とする改名申立てとは
日常生活で長く使ってきた名前と戸籍上の名前が異なると、その不一致が手続や社会生活で不便を生むことがあります。銀行口座や保険証、職場の名簿など、説明が必要になる場面が多く、生活上の負担として相談を受けることも少なくありません。
このような不一致を解消し、現実の社会生活と法的記録を一致させるために利用されるのが、通称使用を理由とする改名です。ここでいう通称とは、戸籍名とは別に、周囲から継続的に呼ばれ、日常の場面で自然に用いられている名前を指します。
名の変更(改名)は戸籍法107条の2に基づき、家庭裁判所の許可が必要です。裁判所は、通称が社会一般に認識され、本人を識別する名称として機能している場合には、これを「正当な事由」として戸籍名の変更を認める考え方を示してきました。
広島高等裁判所岡山支部の決定
この裁判例は、約11年間、通称を名乗って生活し、通称が社会的にその人の名前として通用している人が、名の変更を家庭裁判所に申立てたところ、認められなかったので不服申立をした事例です。
名は個人に対する同一性認識の基準であるから、その変更は個人の同一性に対する認識を害し、ひいては社会一般にも支隣を与えることになるので、みだりにこれが変更を許すべきものではないが、多年通称を用いてきたため、にわかに戸籍上の氏名を使用することが却つて、あたかも名を変更したかの如き観を呈する場合には、むしろその通称を以つて戸籍上の名とする方がその者に対する認識を確実にするのみならず、本名と通称との併用によつてその社会生活上受くべき諸種の不便、不利益を除くこととなるわけであるから、名の変更につき正当な事由あるものと解するのが相当である。
この事例では、通称が社会一般に認識され、社会生活上通称が本人を表象するに至っているようであれば、この通称を名乗っていること自体が、名の変更のために必要な正当な理由にあたると判断しています。
現在は、むしろ通称を名乗っていること以外の理由では、正当な事由と認められるためのハードルが高くなっています。
一方で、通称の永年使用以外の理由でも、比較的短期間であっても通称を名乗っていれば、正当な理由と認められやすくなる傾向にあります。
裁判所は、このような判断基準を前提に、通称がどの程度社会で通用しているのかを、使用期間や使用範囲、証拠の内容などから具体的に評価します。
次の章では、裁判所が重視する「永年使用」の要件や期間の目安について、さらに詳しく解説します。
永年使用の要件と目安期間
長い間通称で生活をしているけれども、「どの程度使っていれば改名が認められるのか」「何年ほどの使用期間が必要なのか」と不安に感じる方は少なくありません。家庭裁判所が重視するのは、期間の長さだけではなく、その通称が生活のさまざまな場面でどれほど社会的に通用しているかという点です。
裁判所は、使用期間・使用範囲・社会的通用性など複数の要素を総合的に評価して、それらの事情が正当な事由にあたるかどうかを判断します。この章では、永年使用の考え方と、実務で目安とされている基準について、わかりやすく整理して解説します。
“永年使用”とは何を意味するのか
通称の永年使用を理由とする改名では、「通称が長年使用され、通称が戸籍上の名前よりもその人を識別する名称として機能していること」が必要です。つまり、単に長期間名乗っているだけではなく、社会生活の中で継続してその通称が使われ、その結果として周囲に通称が広く認識されている状態を指します。
裁判所は、形式的に何年経過したかだけで判断するのではなく、生活のさまざまな場面で通称がどのように使われてきたのかという実態を重視します。たとえば、家族や友人との日常、職場での呼称、取引先とのやり取り、地域での活動など、本人の社会的なつながりの中で通称が自然に用いられているかが重要になります。
そのため、10年以上通称を使っていても使用範囲が限定的であれば永年使用と評価されないことがありますし、反対に、生活の多くの場面で通称が用いられていれば、比較的短期間でも社会生活における通用性が認められることがあります。
永年使用とは、「長い期間」そのものよりも、その通称が本人を表す名前として社会的に根付いているかどうかを判断するための概念です。次の章では、この永年使用がどのような場面で形成されるのか、具体的な使用範囲や一貫性について解説します。
使用範囲と一貫性
永年使用が認められるためには、通称がどの範囲で使われているかも重要な要素です。裁判所は、社会生活の幅広い場面で通称が用いられているかどうかを確認します。使用範囲が広いほど、通称が本人を表す名称として定着していると評価されやすくなります。
特に、職場や取引先、社会活動、地域活動や趣味の活動などの社会的なつながりの中で通称が使われている場合は、その事実が社会的通用性を強く裏付けます。
逆に家庭内や親族だけで通称を使っている場合、あるいはネットサービス等限定的な場面だけで通称を使用している場合は、評価が弱くなります。特に家族内のみで使用しているケースでは、社会生活上の通用性があるとはいえません。また、場面によって複数の通称を使い分けていると、一貫性がないと判断され、正当な事由とは認められなくなります。
このように、永年使用の判断では「どれほど広い場面で」「どれほど一貫して」通称が使われているかが重要になります。次の章では、実際にどれくらいの期間が目安となるのか、使用期間に関する基準を解説します。
使用期間の目安
永年使用の判断では、「どれくらいの期間通称を名乗っているか」も重要な要素です。よく「7年使用していれば改名が認められる」という説明が見られますが、これは法律上の基準ではなく、過去の裁判例の傾向から一般的にいわれている目安にすぎません。
裁判所内のひとつの基準として、平成3年の大阪高等裁判所管内裁判官有志協議会が結論付けた基準があります。
- 成年は7年前後
- 未成年は5年前後
- 幼児は3年前後
この他に、成年の場合は5年以上、子供の場合は3~4年とする見解があります。また他方で、未成熟子は2~3年程度とする説もあります。
私の体験としては、乳幼児については半年~1年程度、小学生の場合は3年程度の期間で一般的に十分なことが多いです。さらに、いじめ被害など通称の永年使用以外の理由と複合的に正当な事由が認められる場合は、より短い期間でも許可されることがあります。
また、使用期間が比較的短くても、職場や取引先などの社会生活の重要な場面で通称が一貫して使用されている場合には、正当な事由にあたるとされることがあります。特に、著名人やスポーツ選手、政治家等の社会的に広く名前が知られる方の場合は、このようなケースに該当しやすいと言えます。
このように、使用期間は永年使用を判断する一つの要素にすぎません。裁判所は、期間・範囲・一貫性を総合的に評価して正当な事由にあたるかどうかを判断します。次の章では、これらの事情に加えて考慮されるその他の事情について解説します。
“永年”の判断に影響するその他の事情
通称の永年使用が中心的な理由であっても、そのほかの事情が加わることで正当な事由として判断されやすくなる場合があります。逆に、通称使用の動機や背景に問題があると評価される事情がある場合には、正当な事由があるとは認められにくくなることもあります。
正当な事由を補強する事情として代表的なのは、通称を使用する必要性が生活上生じているケースです。たとえば、「使用期間の目安」で触れたように、学校でのいじめ被害のために通称を名乗らざるを得なかった場合でいじめ被害の程度が正当な事由と言い切れない場合や、難読とは言い切れないが読みづらい名前の場合もしくはトランスジェンダーであるが性同一性障害の診断がされないなど、合理性が認められる事情も考慮されます。
一方で、姓名判断や占いといった理由で通称を使用し始めた場合であっても、使用期間が長く社会的に定着していれば、永年使用として評価され、名の変更が許可されることもあります。しかし、通称の使用の動機が不当と判断される場合、たとえば債務逃れや破産歴・犯罪歴の隠ぺいを目的として別名を用いていると疑われる場合などは、不当な目的だとして認められない可能性が高くなります。
このように、永年使用以外の事情はプラスにもマイナスにも働き得ます。裁判所は、通称の使用期間・使用範囲・一貫性に加えて、使用動機や社会生活上の必要性などを総合的に考慮して判断します。次の章では、通称使用を理由とする改名申立において、どういった証拠資料が必要になるかについて解説します。
通称の使用実績を証明する具体的な方法
通称の永年使用が正当な事由として認められるためには、実際にどのような場面で通称が使われてきたのかを、客観的な資料によって示す必要があります。裁判所は、申立人本人の説明だけではなく、日常生活の様々な場面での使用状況がわかる資料を総合的に検討して、通称が社会生活の中でどれほど通用しているかを判断します。
ただし、改名の審査において提出が義務づけられた特定の資料があるわけではなく、どの資料を組み合わせるべきかは個々の生活状況によって異なります。重要なのは、通称が「実際に社会生活の中で継続的に使用されている」こと、「社会生活上通称が本人を表象している」ことを裏付ける複数の資料を、矛盾なく揃えることです。
この章では、日常生活での通称使用の状況を裏付けるための証拠資料の集め方について解説します。
準公的書類で証明できる資料の例
現在は本人確認が厳格にされるため、公的書類で通称を使用することは不可能だと考えられます。また、犯罪防止の観点から、銀行、証券等の金融機関や携帯電会社等も不可能です。公的機関以外の学校・職場・医療機関や地域団体などが作成する資料は、準公的な書類と考えて良いでしょう。ただし医療機関で健康保険を利用する場合は難しいです。
こういった準公的な機関が発行する名簿や記録、通知文書など、学校であれば卒業証書、学位認定書や成績の通知書などがあります。これらに通称を記載することも可能で、社会生活の中で実際にその名前が使われていることを示す資料として、有力な根拠となります。
また、勤務先や所属団体から発行される身分証・社員証、名札、名簿、会報、活動記録なども、社会生活上の継続的な使用を裏付ける資料となり得ます。ただし、形式的に通称が記載された資料や、本人が自由に記載できる性質の文書は、証明力が弱いと判断される場合があります。
ただし、準公的な機関が通称の使用を認めなければならない義務があるわけではないので、あくまで対応をお願いするにとどめるべきです。
準公的書類は、通称使用の「幅」と「継続性」を示す重要な資料ですが、必ずしもなければならないわけではありません。重要なのは、生活の中で自然に作成された複数の資料によって、通称が本人を表す名前として使用されてきたことを、矛盾なく示すことです。次の章では、日常生活での使用状況を示す私的資料の例について解説します。
私的書類・日常生活からの証拠収集
通称の使用実績を裏付ける資料には、準公的書類だけでなく、日常生活の中で自然に作成される私的なものも重要な役割を果たします。
日常生活で自然に作成される資料の例としては、友人・知人とのやり取りの中で通称が記載されたメッセージ、招待状、手紙、メール、ライン等メッセージアプリ、案内文書があります。
一方で、本人が自由に編集できるSNSのプロフィール、自己紹介文などは、証明力が十分とはいえません。逆にSNSでのDMのやり取りは資料として十分だと考えられます。第三者が自然に通称を使用している痕跡こそが、社会生活での通用性を示す有力な根拠となります。
また、複数の私的資料を提出する場合には、記載されている通称が統一されているかどうかも重要な評価ポイントです。場面ごとに別の名前を使い分けていると、一貫して使用されているとは評価されず、永年使用を裏付ける資料としての信用性が弱くなります。
なお、Amazonや楽天、メルカリなどのネットサービスでは、本人が登録した名前を自動的に反映しているだけの記号のようなものですので、証拠としての価値は高くありません。
私的資料は、生活の中で自然に形成された痕跡を示す重要な資料で、比較的容易に用意できると思います。次章では、準公的書類と私的資料をどのように整理し、申立書にまとめるべきかについて解説します。
証拠整理と申立書への反映のポイント
通称の永年使用を理由とする改名申立では、資料の内容が申立ての理由と矛盾なく整理され、裁判所にとって理解しやすい形になっているかが重要です。証拠と理由の説明が一致していない場合、使用期間や使用範囲が正しく評価されず、正当な事由と認められないこともあります。
証拠の整理で最も重要なのは、通称の使用状況を「時系列」と「使用範囲」に沿ってまとめることです。いつから、どの場面で、どの程度継続して通称が用いられてきたのかを明確にすることで、永年使用としての一貫性が示されやすくなります。また、複数の資料を並べたときに、記載されている通称が統一されていること、資料間で矛盾が存在しないかどうかも重要な確認事項です。
申立書に記載する理由は、以下のポイントを押さえて記載すると良いでしょう。
- 通称を名乗り始めた理由や名前を変更しようと考えた動機
- いつごろから、どういった場面で通称を名乗るようになったのか
- 現状を説明して、名前の変更の必要性があることを訴える
また、資料の性質、作成主体、通称が記載されている経緯などを簡潔に説明する一覧表を作成して整理する方法も有効です。
このように、証拠資料は単に集めるだけではなく、意識して整理することが重要です。次の章では、永年使用が認められやすいケース、認められにくいケースについて、裁判所の判断基準と実例を踏まえて解説します。
認められやすいケース・認められにくいケース
通称を理由とする改名申立では、使用期間や使用範囲など、さまざまな事情が複合的に評価されます。したがって、「何年使えば/この資料があれば必ず認められる」といった明確な基準があるわけではありません。
この章では、裁判所の判断傾向からみた「認められやすいケース」「認められにくいケース」を整理し、どのような点が評価され、反対にどのような点が問題となりやすいかをわかりやすく解説します。申立てを検討する際の参考としてご活用ください。
裁判所が重視する判断基準と評価の流れ
通称を理由とする改名申立では、裁判所は形式的な基準に当てはまるかどうかではなく、生活の中で通称がどの程度定着しているかを総合的に判断します。特に、通称が社会生活における本人の名前として機能しているかどうかが、もっとも重要な評価ポイントになります。
評価の流れとしては、まず第一に、通称の使用期間が確認されます。期間が長ければそれだけで足りるわけではありませんが、継続性のある使用が認められるための重要な要素となります。次に、職場や学校・友人関係など、どの範囲で通称が使われているかが検討され、社会生活上の通用性が判断されます。
使用の動機や背景事情は現在はあまり重要視されていませんが、生活上通称を名乗らざるを得ない状況がある場合は、正当な事由に該当するかどうかの判断を補強する事情として評価されます。一方で、不当な目的で通称を使用していると疑われる事情がある場合には、許可されない可能性が高まります。
これらの事情は個別に評価されるのではなく、資料と申立書の内容を踏まえて総合的に判断されます。つまり、単に使用期間だけが長い、資料の数が多いといった一面だけでは判断されず、通称が本人の名前として社会生活で機能していることを一貫して示せるかどうかが重要となります。
このように、裁判所の判断基準は単純なチェックリストではなく、生活実態に即した柔軟な総合判断です。次の章では、こうした判断ポイントを踏まえ、実際に認められやすいケースと認められにくいケースの特徴について解説します。
改名が認められやすいケースの特徴
通称使用を理由とする改名が認められるのは、通称が社会生活の中で自然に定着し、戸籍名よりも本人を表す名前として機能しているケースです。特定の事情だけが決定的になるわけではありませんが、裁判所の判断傾向からは、次のような特徴がある場合に認められやすいと考えています。
1. 通称が長期間にわたり、一貫して使用されている場合
生活の複数の場面で通称が自然に使われているケースは、永年使用として評価されやすくなります。特に、職場や周囲の人が「その名前で認識している」状態が継続していることは、強い理由になります。
2. 使用範囲が広く、社会生活上の通用性が高い場合
複数のコミュニティで通称が使われている場合、その名前が社会的に本人を表す名称として定着していると判断されやすくなります。
3. 第三者が自然に通称を使用している資料が複数存在する場合
名簿や記録、通知文書など、本人以外が作成した資料に通称が記載されている場合は、通称の客観性を裏付ける重要な資料となります。家族・友人など、周囲の人々がその名前で呼び、記録している事実も評価されます。
4. 通称を使わざるを得なかった事情が存在する場合
いじめ被害、読みづらさなど、通称を使用する合理的な必要性がある場合も、永年使用の判断を補強する事情として考慮されます。これらの事情が単独で正当な事由と評価される場合もありますが、通称使用の実績と合わせて示すことで、より説得力が高まります。
このように、認められやすいケースの共通点は「通称が生活の中で自然に定着している」という点にあります。次の章では、反対に認められにくいケースの特徴について解説します。
改名が認められなかった・制限されたケース
一方で、通称使用の実績があると主張しても、正当な事由としては認められにくいケースもあります。ここでは、裁判所の判断傾向からみられる「認められにくい理由」の特徴を整理します。必ずしも認められないわけではありませんが、注意点として役立ててください。
1. 使用期間が短く、永年使用として評価できない場合
通称の使用開始からの期間がごく短い場合は、永年使用として認められません。また、一時的・断続的な使用では、永年使用を裏付ける事情として評価されにくい傾向があります。
2. 使用範囲が限定され、社会生活での通用性が不足している場合
通称が親族間や少数の限定的な友人の間で使用されている場合は、社会生活上の通称としての通用性が弱いと判断されます。社会的なつながりの中で自然に使用されている状況が不足していると、正当な事由としての評価が難しくなります。
3. 複数の通称を使い分けており、一貫性に欠ける場合
場面ごとに異なる名前を名乗っている場合、通称が本人を識別する名称として確立しているとは評価されません。一貫した使用が認められないと、永年使用に基づく正当な事由を裏付ける資料として信用性が弱くなります。
4. 直近数年の資料が乏しく、使用の継続性が確認できない場合
長期間、通称を使用していたとしても、直近数年間の資料がほとんど存在しない場合は、現在も通称で生活しているかが疑われ、正当な事由として評価されにくくなります。永年使用は「継続性」も重要なポイントです。
5. 証拠と申立内容に矛盾がある場合や、証拠の信頼性に問題がある場合
申立書に記載された内容と証拠資料が一致していない場合や証拠資料に矛盾があるような場合は、実際の使用状況が疑われ、永年使用として評価されにくくなります。ただし、通称を名乗り始めた初期の資料がない場合でも、その後の十分な期間の資料が揃っていれば問題となりません。
6. 通称を使用し始めた動機が不当と判断される場合
債務逃れ、破産歴・犯罪歴の隠ぺいなど、不当な目的で別名を使用している疑いがある場合は、改名が許可されない可能性が高くなります。最近は特に厳しく審査される傾向があります。
このように、認められにくいケースの多くは、「通称が社会生活に定着していない」または「使用の経緯に問題がある」ことに起因しています。次の章では、これまでのポイントを整理し、申立ての準備にあたって注意すべき点をまとめます。
改名の制度と通称による改名の歴史的経緯
名前の変更に関する法律は大きく分けて、昭和22年以前の旧戸籍法とそれ以降の新戸籍法に分かれます。
旧戸籍法の時代
明治維新後、旧戸籍法の時代は、氏名の変更は原則禁止でした。
名前についてはいくつか例外がありましたが、厳しく制限されていました。また、氏については従前の氏に戻すことだけができました。
いずれも家庭裁判所の管轄ではなく、内務大臣の委任を受けた市区町村長の許可が必要でした。
戦後の戸籍法の改正
第二次世界大戦後、昭和22年の改正で戸籍法107条が新設され、市区町村長の許可ではなく、司法大臣の管轄(家庭裁判所)とされました。
その後、氏の変更の戸籍法107条と名の変更の戸籍法107条の2に分かれ、令和の戸籍法改正で、名の振り仮名の変更に関する規定が新設されました。
この昭和22年の戸籍法改正にあわせて、家庭裁判所が改名の許可の判断基準として挙げた事情は、以下のものでした。
- 営業上の目的から襲名する必要がある場合
- 同姓同名の者がいて、社会生活に著しい支障がある場合
- 神官・僧侶になり、又は神官・僧侶をやめた場合
- 珍奇な名前、外国人と紛らわしい名前、難解・難読な文字の名前で社会生活に著しい支障がある場合
- 帰化した人で、日本風の名前にする必要がある場合
- 上記の場合であっても、人名用漢字であること
現在では、上記の1~3はとても厳しく審査され、認められにくくなっています。また国籍法の改正で5のケースはほとんどないと言われています。
そして、ここには、通称を長年名乗って生活していたことは、含まれていませんでした。
通称の使用を理由にする名前の変更の歴史
通称の使用を理由にする改名の申立は、古くからあるようです。しかし、上記の新戸籍法の施行直後の判断基準には通称の使用が含まれておらず、通称の解釈に諸説があり、裁判所によって可否の差が存在していたようです。
新戸籍法になった直後の昭和20年代は、通称を名乗らなければならなかった特別な事情を重視していて、ただ長年にわたって通称を名乗っているだけでは、許可をしない裁判例が多いようです。
その後、通称を名乗り始めた理由に関わらず、長期間にわたって通称を名乗り続けていることで戸籍の名前の変更を許可する審判が増えてきました。
札幌高等裁判所の決定
札幌高等裁判所は、姓名判断を理由に通称を名乗り始めた人の名前の変更許可申立について、次のように判断して改名を許可しました。
通名使用の動機が姓名判断によるものとはいえ、12歳の頃から大学を卒業し就職している現在に至るまで16年余の長年月にわたり、止むをえず戸籍上の名を使用しなければならなかった公文書や公的記録上において以外はすべて通名を使用してきたため、現在は右通名が広く社会一般に認識されて社会生活上、抗告人を他から識別する役割を果たしていることが認められるから、抗告人がその名を右通名に変更するについては、戸籍法107条2項の正当な事由があるというべきである
仙台高等裁判所の決定
仙台高等裁判所は、姓名判断や自分の名前に対する嫌悪感等が通称を名乗り始めた理由であっても、通称を名乗り続け一定の状態になった場合は改名を許可する判断をしました。
通称名が永年にわたって使用され、これが戸籍名に代って社会生活上本人を表象する機能をもつに至っている以上、通称名使用の動機が戸籍名に対する悪感情と姓名判断によるものであっても改名を許可するのが相当である
これらの高等裁判所の判断以降、通称を名乗り始めた動機事態の比重は小さくなり、代わりに通称が社会一般に認識され、社会生活上通称が本人を表象するに至っているかが一層重視されるようになりました。しかし、不当な目的を動機として通称を名乗りはじめたことは、依然として不許可の重要要因となり得ます。
現在は、むしろ通称を名乗っていること以外の理由で、正当な事由を認められるハードルが高くなり、その他の理由でも(短期間でも)通称を名乗っていることが、正当な理由が認められることになります。
変更後の名前の適格性と他の改名理由
変更後の名前は原則として事由に選べますが、一般的な制約は受けます。しかし、通称を名乗っていることを理由にする場合は、先行して通称が社会一般に認識されているものなので、現実に社会で名乗っている通称が尊重されます。
しかし、新しい名前が誤読されるおそれがある、異性と紛らわしい、外国人と紛らわしいと評価される場合は、新しい名前自体が再度の名の変更の理由になりうるので、許可されない可能性があります。また、通称自体が公序良俗に違反する場合は許可されない可能性があります。
まとめ|通称名を名乗っていることを理由(通称の永年使用)に改名する手続
通称使用を理由とする改名では、使用期間・使用範囲・一貫性・継続性など、日常生活の中で通称がどのように定着しているかが重要な評価ポイントとなります。特に、社会生活上の通用性があるかどうかは、裁判所が重視する判断基準です。
また、通称の使用を始めた動機そのものは現在あまり重視されていませんが、不当な目的が疑われる事情がある場合には審査が厳しくなります。逆に、仮に期間が短くても合理的な理由や使用の必要性がある場合には、正当な事由を認める事情として考慮されることもあります。
改名申立では、使用状況を裏付ける資料を丁寧に整理し、申立書の記載内容と矛盾しない形でまとめることが大切です。状況に応じてどの資料を組み合わせるかは人によって異なるため、実際の生活実態に沿って証拠を整えていく必要があります。
通称使用を理由とした改名は、適切な証拠と説明が揃っていれば認められる可能性があります。次の章では、よく寄せられる質問について整理します。