離婚して子供が大きくなったので旧姓に戻したいと考えている方向けに、裁判所の氏の変更許可手続きの注意点、ポイントを詳しく解説しています。旧姓に戻す手続き全体の注意点や準備すべき戸籍や書類について説明し、スムーズに旧姓に戻すための実用的なアドバイスを提供します。
子供が大きくなったので旧姓に戻したい方がするべき手続の準備
子供が大きくなったので旧姓に戻すためには、氏の変更の家庭裁判所の許可を得た後、市区町村の戸籍の窓口に氏の変更届を届けなければなりません。手続きにあたっての準備とその後の流れを解説します。
現在の戸籍とお子様の状況の把握
お子様が同じ戸籍に記載されているかどうか、お子様が15歳以上かどうかは、手続きに大きく影響します。そのために必要な戸籍を集めたら、以下の点を確認してください:
- お子様が現在同じ戸籍に記載されているか
- お子様の年齢
これらは裁判所の旧姓に戻すための許可に密接に関わるため、必ず確認しましょう。また、お子様が同じ戸籍にいる場合、その住所も後の手続きに関係してくるので確認する必要があります。
家庭裁判所へ氏の変更許可申立
家庭裁判所に申立てるには、住所や本籍等の必要事項を記入した申立書、戸籍謄本やその他に必要な書類を、収入印紙等の手数料とあわせて裁判所の受付窓口に提出しなければなりません。詳細はのちほど解説します。
なお、直接、受付窓口へ出向く必要はなく、郵便で提出することも可能です。
市区町村へ旧姓に戻すための氏の変更届出
許可がされた後は、許可の審判書と確定証明書を裁判所から取得して、その後、市区町村の戸籍の窓口へ氏の変更を届け出なければなりません。
氏の変更届の用紙は、各市区町村の戸籍窓口で取得できますが、用意に時間がかかることもあるので、事前に市区町村のホームページからダウンロードできるか確認すると便利です。
子供が大きくなった後での旧姓に戻す手続きをする前に注意する点と対応
子供が大きくなった後での旧姓に戻す手続きをする前にチェックするべきポイントとは、お子様が本人と同じ戸籍にいるかどうかです。お子様が同じ戸籍にいない場合は、全く問題になりません。
しかし、お子様が同じ戸籍にいる場合は、本人が氏を変更すると同時にお子様の氏も変更されてしまいます。この際にお子様の意向次第では、裁判所が旧姓に戻すことを許可しないこともありえます。
お子様が全員結婚している場合
お子様が全員結婚している場合は、別の戸籍に移っているのでため問題になりません。ただし、一度結婚して他の戸籍に移った後に、離婚をして同じ戸籍にもどってきている場合は、2.3と同じです。
お子様が未成年の場合の注意点
お子様が未成年の場合は、注意が必要です。
まず、お子様が15歳未満である場合は、裁判所の許可に影響はありません。
次に、お子様が15歳以上の未成年である場合は、お子様本人の意向が裁判所の許可に影響します。どうしても、お子様本人が氏を変えたくない場合は、旧姓に戻すことを断念するか、お子様を元配偶者の戸籍に戻す手続きをせざるを得ません。
お子様が成人している場合の注意点
成人したお子様が同じ戸籍にいる場合は、お子様本人の意向が重要になります。
お子様本人が成人している場合は、未成年であるときと違って、お子様本人の意思で分籍手続きをすることで、お子様と戸籍を分けることが可能です。
ですので、どうしてもお子様本人が旧姓に戻すことを拒絶する場合は、あらかじめお子様と戸籍を分けるため」分籍の手続きをしてから、裁判所へ申立をすることになります。
15歳以上の子供がいても、スムーズに旧姓への変更許可を得るためのポイント
成人した子供、未成年でも15歳以上の子供が同じ戸籍にいる場合、裁判所はお子様の意見を聞かなければならないため、時間がかかることがあります。
前もって、お子様本人が旧姓にもどることを受け入れているのであれば、お子様が旧姓に戻すことに同意しているという、同意書を申立書と一緒に裁判所に提出することで、手続きがスムーズに進みます。
子供の年齢 | 子供の同意がある場合 | 子供が旧姓に戻すことを拒絶している場合 |
---|---|---|
15歳未満の子供 | 問題なし |
|
15歳以上の未成年 | 同意書を用意する |
|
成人している | 同意書を用意する |
|
このように、お子様が15歳以上の場合、お子様の意向がとても重要になります。特にお子様が旧姓に変更することを拒絶している場合、複雑な戸籍手続きをすることもあるので、戸籍手続きに精通した専門家へ相談することをお勧めします。
旧姓に戻すために氏の変更許可手続きをする際のポイント
お子様の状況による手続きへの影響、注意点とその対応は2.で述べましたが、それ以外に、旧姓に戻すための氏の変更許可手続きにあたってのポイントを解説します。
離婚後10年以上経過してからの旧姓への変更手続き
現在は、離婚後の期間は原則問題になりません。平成28年以前は、離婚から10年以上経過している場合、許可される/されないの判断が管轄裁判所ごとにばらつきがありました。しかし、平成28年に、離婚後長期間が経過していても許可するという高等裁判所の判断があり、以降、離婚後の期間は問題になりません。
結婚と離婚が複数ある場合
結婚と離婚が複数ある場合も、全く問題なく旧姓に戻すことは可能です。ただし、戻すことができる旧姓は、最初の結婚の直前の親の氏だけです。
と氏が変遷した人の場合は、戻すことができる旧姓は、佐藤さんだけです。鈴木さん、高橋さんに戻すことはできません。
本人が子供の頃に両親の離婚で氏が変わっている場合
ご本人の氏が、子供の頃の自身の両親の離婚で変わっている場合も同様です。この手続きで、戻すことができる旧姓は、結婚直前の氏(両親の離婚後の氏)です。
と氏が変遷した場合は、戻すことができる旧姓は、鈴木さんだけです。しかし、この場合は条件次第では、別の手続きを使って、高橋さんに変更することは可能です。
氏の変更に必要な「やむを得ない事由」について
子供が大きくなったので旧姓に戻したいと考えて、裁判所に氏の変更の許可を求める場合、「やむを得ない事由」は緩やかに考えられます。他の理由で氏を変更する場合と比べて、ほとんど問題になることはありません。
氏の変更が許可されない一般的な事由
子供が大きくなったので旧姓に戻したい場合は、上記のとおり、「やむを得ない事由」はあまり問題になりません。しかし、裁判所は氏の変更の動機が「不当な目的」であると判断した時は、許可されません。
不当な目的とは、犯罪歴や破産歴又は大きな借金の隠ぺいを目的としているような場合です。これ以外にも疑われるような事情がある場合は審査が長引き、許可されないことがあります。
旧姓に戻すための氏の変更許可申立の手続き
旧姓への変更も、他の氏の変更と同様に、裁判所の許可を得て氏の変更届をすることで、はじめて戸籍の氏が変わります。ここでは、裁判所の氏の変更許可申立の手続きにポイントを絞って解説します。
氏の変更許可申立のための裁判所の費用
裁判所の申立手数料は、800円分の収入印紙で納めることになっています。800円の収入印紙は販売されていないので、400円の収入印紙2枚を用意することが多いです。
これとあわせて、家庭裁判所との連絡用の郵便切手を納めることになります。郵便切手の総額と内訳は管轄する裁判所によって違いがあります。ですので、事前に裁判所のホームページ等で確認することをお勧めします。
一般的には総額で1,500円程度から2,500円程度が多いと思いますが、500円から600円の郵便切手を最初に納め、後日1,000円程度を追加する管轄裁判所もあります。なお、2024年10月から郵便料金が値上がりするので、100円から300円程度、総額が増えると思われます。
管轄 | 郵便切手の総額 | 切手の内訳 |
---|---|---|
東京家庭裁判所 (東京家庭裁判所立川支部も同じ) |
1,770円 |
|
横浜家庭裁判所 | 1,660円 |
|
さいたま家庭裁判所 | 1,660円 |
|
千葉家庭裁判所 | 2,100円 |
|
※支部によって、切手の総額・内訳が違うことがあります。 |
氏の変更許可申立のための裁判所の期間
氏の変更許可申立の裁判所のための期間は、裁判所に申立てをしてから、早い場合で1か月程度、通常1か月半から2か月程度かかります。
これで、家庭裁判所の手続きが終わりになります。しかし、管轄の裁判所によっては、照会書で質疑応答するのではなく、裁判所に出頭して面談がある場合があり、この場合は余計に時間がかかることもあります。
また、裁判所が問題ないと考える場合は、2.の段階で許可の審判書が届くこともあります。
旧姓への変更許可のために用意すべき戸籍謄本等の書類
氏の変更許可申立書の作成
申立書は、裁判所の窓口に備え付けられているほか、裁判所のホームページからもダウンロードできます。(裁判所のページ:氏の変更許可の申立書、各家庭裁判所が別のひな形を用意していることも多いです。)
申立書の1ページ目には、本籍や住所氏名等を記入し、署名押印をします。
2ページ目には、変更したい旧姓や、旧姓に戻そうと考えた経緯、15歳以上のお子様がいる場合はお子様の住所氏名と年齢を記入します。
申立書に記入する氏名や地名は、戸籍や住民票に記録されているとおりの文字で記入をするべきです。また、許可がされた後、氏の変更届を作成するときに、戸籍等の証明書が手元にあるととても便利なので、裁判所に提出する申立書・戸籍等の証明書はすべてコピーをして、保管することをお勧めします。
記入が終わったら、申立書と集めた証明書等、申立手数料を受付の窓口に提出します。裁判所の受付は申立書等を郵送しても問題ありません。
家庭裁判所の審査や面談
裁判所が申立書をうけとると、申立書に記入された本籍や住所氏名等に誤りがないか、戸籍等の証明書に不足がないか、形式的な審査をして、問題がなければ受付をします。簡単な誤記等があれば、この場で訂正するように求められます。
受付後は担当部署に書類が移り、内容の審査が始まります。ここでは、旧姓に戻すことを許可しても良いのか、許可してはならないことはないのかを審査されます。
ここまでで、書類上はまったく問題ないと判断されると、すぐに許可をする裁判所がありますが、一般的には形式的に、本人に照会、面談が設けられます。照会や面談では、形式的な質問や、書類上問題があると考えられた点を、郵便や口頭で質問されます。その後、裁判官が問題ないと判断したら、許可の審判書を、郵便又は手渡しで受け取れます。
かりに許可されない場合、不許可の審判書が郵送されることが多いです。
家庭裁判所に許可された後にすべきこと
裁判所の手続きの市区町村への戸籍届をする時に、旧姓に戻すことが確定したことの証明書(確定証明書)を添付しなければならないので、確定証明書を申請する必要があります。
確定証明書の申請書は、ほとんどの裁判所で許可の審判書と一緒に渡されます。申請書には、住所氏名等を記入して、署名押印する必要があり、また確定証明書の発行手数料の150円分の収入印紙も必要になります。この証明の申請は、旧姓に戻すことの許可が確定する前にでもできるので、許可の審判書を受け取ったらすぐに申請した方が良いです。
確定後数日で、確定証明書が普通郵便で送られてきます。なお、最近は郵便事情があまり良くないので、速達や書留で送ってほしいと裁判所書記官にお願いするのもお勧めです(追加の切手を求められることもあります)。
市区町村への氏変更届とその後の手続き
裁判所から確定証明書を受け取ったら、市区町村へ氏の変更を届け出ます。氏の変更は、変更届出書を住民票又は本籍のある市区町村に提出しなければ、戸籍上の氏は変わらないので、必ず届け出る必要があります。
届出をしなければならない期間はありませんが、あまりにも時間が経過している場合は、許可の審判書や確定証明書の再発行を求められかもしれないので、確定証明書を受け取ったら、すぐにでも届け出るべきです。
氏の変更届出書の記入
氏の変更届出書の用紙は、市区町村の窓口に備え置かれていますが、市区町村のホームページでダウンロードできることも多いので、事前に準備をしても良いと思います。
いずれの事項も、申立のために用意した戸籍等の証明書や審判書等に記載されているものですので、それを確認しながら記入してください。これらの事項を記入後、届出書に署名をしたら、市区町村の戸籍の窓口に届出ます。戸籍の届出の窓口は、戸籍謄本等の証明書の窓口とは別ですので、役所の受付で「戸籍届をしに来た」とはっきり言った方が良いです。なお、戸籍届への押印義務は廃止されていますが、押印しても問題ありません。
氏の変更届後の手続き
氏の変更届をした後の流れは、変更届をどの市区町村にしたかで、少し違います。
-
住民票のある市区町村に届出をした場合
この場合は、住民票の氏は、届出後すぐに変更され、国民健康保険やマイナンバーカードの手続きもあわせてすることができます。
戸籍は住民票のある市区町村から本籍地の市区町村へ送られ、1週間から2週間程度で新しくなった戸籍を取得できるようになります。
-
本籍地の市区町村へ届出をした場合
この場合は、本籍地ではすぐに戸籍の変更作業がされますが、手続き的には1週間から2週間程度かかります。その後、新しい戸籍を取得することができるようになります。
住民票は、戸籍のある市区町村から住民票のある市区町村へ通知がされます。通知があった後、すぐに住民票の変更はされますが、国民健康保険やマイナンバーカード等の手続きのために、別途住民票のある市区町村の窓口に行く必要があります。
-
私のおすすめ
私のおすすめは、住民票のある市区町村に届け出る方法です。なぜならば、その場でマイナンバーカード等の住民票の関係の手続きができるからです(とはいえ1時間以上は時間がかります)。また、氏の変更が分かる住民票があれば、運転免許証の書き換えも可能で、運転免許証以外にも住民票で手続きできるものがあります。
変更後の住民票や戸籍を取得した後は、銀行や携帯電話、クレジットカード、保険契約、水道光熱費などの名義を随時書き換えていきます。これらはすぐに書き換えなくても問題があるわけではないですが、時間がたってから手続きをする場合、とても手間がかかることがあります。特に銀行や携帯電話は本人確認が特に厳しいものですので、早めに手続きされることをお勧めします。
まとめ
離婚して、子供が大きくなったので旧姓に戻したい方の場合、他の理由で氏の変更をする場合と比べて、容易に許可を得ることが可能です。しかし、お子様が同じ戸籍にいる場合は、注意が必要です。特に同じ戸籍にいるお子様が15歳以上で氏の変更を拒絶している場合は、そもそも許可がされないこともあるので、しっかりと準備をする必要があります。