配偶者の死亡後に戸籍の筆頭者ではない生存配偶者は、戸籍の届をすることで旧姓に戻すことができます(これを「復氏の届」と戸籍手続ではいいます)。夫が戸籍の筆頭者である場合が多いので、妻が夫の死亡後に旧姓にことが、ほとんどだと思います。
手続は難しくありませんが、旧姓に戻した後にいくつか注意点があるので、手続と注意点を解説していきます。
1.夫の死亡後に旧姓に戻すためには
夫の死亡後に旧姓に戻すためには、現在の戸籍の本籍・筆頭者、新しい氏(旧姓)と新しい戸籍の本籍等の必要事項を記入して、住所のある市区町村の窓口に復氏の届を提出する必要があります。
1.1自分の本籍・筆頭者を確認する
まずは自分の本籍・筆頭者を確認します。
本籍・筆頭者を確認するためには、自分の住民票を市区町村の窓口で取得するのが一番簡単です。市区町村の窓口で本籍・筆頭者もしてほしいと伝えて、住民票を請求しましょう。
もし、亡くなった配偶者の相続手続をしている場合は、相続手続の時に集めた戸籍や住民票からも確認できます。
1.2戸籍の届出の用紙を入手する
住民票を取得した後は、そのまま役所の戸籍の窓口の人に復氏の届の用紙をもらい、その用紙に記入すると時間の短縮になります。
復氏届の用紙は、市区町村の窓口又はインターネットで用紙をダウンロードして、手に入れることができるので、事前に分かる部分を記入してしまうのも良いです。(復氏届+市区町村名で検索すると簡単に見つかると思います。ダウンロードした用紙はA4の紙にプリントアウトしてください。)
以前は住所のある市区町村が、本籍の市区町村と別である場合は、戸籍の届に現在の戸籍を添付する必要がありました。しかし、2024年3月1日以降は、戸籍の届をする時に現在の戸籍の証明書の提出を省略できるようになりました。ですので、かりに住所と本籍が別の市区町村であっても、そのまま復氏の届出をすることができます。
1.3復氏の後に戸籍・住民票を取得して名義の変更をする。
復氏の届をした後は、住民票はその場で元の氏に戻った後のものを取得でき、マイナンバーカード、国民健康保険証等も同時に手続きできます。
戸籍は、住民票と本籍の市区町村が同じ市区町村の場合は、1~2週間程度、そうでない場合は2週間から1か月程度で新しい戸籍ができあがります。
新しくなった戸籍・住民票を取得したら、運転免許証や預貯金、生命保険、携帯電話等の名義を変更していきます。
窓口や会社によって、戸籍が必要な場合、住民票でも名義変更できる場合があるので、事前に電話で確認してから名義変更手続をすすめると良いです。
ちなみに、運転免許証は、新しい住民票で書き換えてもらえることが多いです。
2.家庭裁判所の手続が必要になる場合
復氏届後に、さらに家庭裁判所の手続が必要になる場合が、いくつかあります。
代表的な例:
- 子供がいる場合
- 配偶者の父母(義父母)と養子縁組をしている場合
- 再婚であって、婚姻前の氏が両親の氏ではなかった場合
2.1子供がいる場合の子供の氏の変更の手続
子供がいる場合は、旧姓に戻った親と同じ氏にするために、新しい戸籍が出来上がった後に、別途家庭裁判所で、子の氏の変更の許可をうけ、復氏した親の戸籍に入籍させる必要があります。
復氏の届をしても、復氏の届をした本人だけに影響するので、子供は亡くなった筆頭者の戸籍に残り、亡くなった配偶者の氏を名乗り続けます。
2.2義父母と養子縁組をしている場合
義父母と養子縁組をしている場合、復氏の届と同時(又はそれよりも先に)離縁の届をして、養子縁組を解消する必要があります。なぜならば、復氏の届をしても養子縁組は終わりませんので、旧姓に氏を戻すことはできません。
義父母の一人又は両方が既に亡くなっている場合は、別途家庭裁判所で死後離縁の許可の手続をしてから、離縁の届をする必要があります。
2.3再婚であって、再婚前にその前の婚姻中の氏を継続して名乗っていた場合
再婚前に前の婚姻中の氏を継続して名乗っていた人が、最初の婚姻前の両親の氏にもどすためには、別途家庭裁判所で氏の変更許可を得て氏の変更届をする必要があります。
再婚直前の氏が両親の氏とは異なっていた場合、復氏の届で戻れる氏は、継続して名乗っていた前婚中の氏になります。
3.夫の死亡後に旧姓に戻す時の注意点
戸籍の筆頭者である夫が亡くなった場合、同じ戸籍にいる妻は、市区町村へ戸籍の届(復氏の届)をすることで、戸籍の氏を婚姻前の氏に戻すことができます。(民法751条、戸籍法95条)この復氏の届は期間制限がないので、配偶者の死亡後は、いつでも手続きをすることができます。
3.1法律的な影響
法律的な影響の注意点は、いくつかあります。
一つ目は、復氏の届は、届をした本人だけに影響するので、同じ戸籍に子供がいても、子供の氏は変わりません。
二つ目は、復氏の届をする人が、配偶者からお墓や仏壇等の管理を引き継いでいる場合は、配偶者の親族等の関係者と話し合いをして、お墓等の管理をする人を決めなければなりません。(民法751条2項、769条、897条1項)
3.2日常生活での影響
日常生活への影響は、重大ではありませんが、広範囲に及びます。氏が旧姓へ戻るので、各種免許や資格、不動産や自動車、銀行や水道光熱費、電話、保険やクレジットカードといった様々なものの名義を変更していくことになります。
免許、資格や不動産の名義以外は、忘れてしまっても罰則はありませんが、後々、もっと面倒なことになります。
例えば、クレジットカードの名義を変更していない場合、新規のクレジットカード発行や各種ローンが、拒否されることもあります。また旧姓に戻した後、住所を変更しているような場合は、過去に遡って住民票や戸籍と戸籍の附票を取得しなければならなくなり、とても手間がかかることがあります。
気づいたものから、すぐに手続きすることをお勧めします。
4.まとめ
夫の死亡後に、婚姻前の旧姓に戻す手続は、市区町村に書類を出すだけで、簡単にできますので、本籍地が記載された住民票を持って、あるいは住民票を取得するついでに戸籍の窓口に行ってもあまり問題はありません。
未成年の子供がいる場合等、戸籍が新しくなった後に家庭裁判所の手続が必要になることもありますが、これもあまり難しくありません。
むしろ、戸籍が新しくなった後に、様々な名義を変更していくことが、広範囲にわたって影響があり、手間も大きく、見落としてしまうことも良くあります。
特に名義を変更しないことで罰則がある、不動産や会社の登記、免許や資格等は、名義変更の期限までにしっかりと対応する必要があります。