国籍喪失届を出さないことのデメリット|知っておくべきリスクと手続き

20世紀後半からグローバル化が進み、日本人の海外移住や外国籍取得が増加しています。ところが国籍喪失に関して十分に知られておらず、大小様々な問題が生じています。

日本の国籍法では、自らの意思で外国籍を取得した人、外国籍も有する日本人がその外国籍を選択した時は、日本国籍を失います。この場合、すみやかに日本国籍の喪失を届け出る必要があります。

戸籍法では、日本国籍の喪失の事実を知った時から1か月以内(日本国外にいる場合は3か月以内)と定められていますが、国籍喪失届を届出ていない人も相当な数がいるようです。しかし、戸籍上日本人としての記録が残っていても、すでに日本国籍は消滅しているので日本人として扱われません。

この記事では、国籍喪失届を出さないことによって生じる様々な問題と、その解決策について解説します。

国籍喪失届とは?国籍喪失の基礎知識

国籍喪失届とは、日本国籍を有していた人が諸事情で日本国籍を失ったことを届出て、日本の戸籍から除籍する手続きです。この届出は、日本国籍が喪失した事実を届出る手続きで、いわゆる報告的な戸籍の届出にあたります。

国籍喪失届を出さなければ、戸籍上は日本人として扱われるので、国籍喪失届以外の例えば婚姻届、養子縁組届や出生届等の戸籍の届出が受理されることもあります。しかし、市区町村や在外日本領事館等が日本国籍を喪失している事実を把握している場合、先に国籍喪失を届出なければ、他の戸籍の届出を受け付けないことが増えています。

また、国籍喪失届が受理された後に戸籍の訂正が必要な場合は、これが終わるまでの間、他の戸籍届を受付できないことがあります。ところが、戸籍訂正の手続きは半年以上時間がかかることも多く、特に期間が厳密に扱われている戸籍届の場合は大きな問題になります。

日本国籍の喪失の条件

日本人が以下の事情に該当すると、日本国籍を失います。

日本国籍の喪失事由
  1. 自己の志望によって外国籍を取得したとき(国籍法11条1項)
  2. 外国の国籍も有する日本人、その外国の法令によりその国の国籍を選択したとき(国籍法11条2項)
  3. 日本国外で生まれた、日本国籍と外国籍を出生により取得した人で、国籍留保の届をしなかったとき(国籍法12条)
  4. 外国籍も有する日本人で、日本国籍を離脱する届出をしたとき(戸籍法13条)
  5. 外国籍も有する日本人が一定期間内に日本国籍を選択せず、法務大臣から一定期間内に国籍を選択するよう催促を受けた後、1か月が経過したとき(戸籍法14条1項、15条)
  6. 日本国籍を選択した日本人が、外国籍を喪失していない場合で、自己の志望でその外国の公務員に就職した場合で、法務大臣から日本国籍の喪失の宣告を受けたとき(国籍法14条2項、16条)

3の場合は戸籍に記録されることがないので、国籍喪失を届けることができません。4~6の事情の場合は、市区町村や法務局が手続きを進めるので国籍喪失の届出は不要です。

国籍喪失届の手続き

1と2の事由で日本国籍を喪失したときは、日本国籍を喪失した本人、その配偶者または本人の4親等以内の親族が、国籍喪失届をしなければなりません

この届出は、日本国籍を失った事実を知った日から1か月以内(外国にいるときは3か月以内)に届ける必要があります。また、日本国籍を喪失をした事実を知った日とは、本人の場合、外国籍を取得した日/選択した日だと考えられます。

国籍喪失届と必要書類

国籍喪失を届出るには、国籍喪失届のほか、いくつかの証明書などを添付する必要があります。

国籍喪失を届出るときに必要な書類
  • 国籍喪失届
  • 外国籍を取得/選択したことの証明書
  • これを日本語に翻訳した文章
  • 外国籍を取得してから1か月/3か月を経過してしまってる場合は事情を説明する書類
  • その他役所から要求される資料

外国籍を取得/選択したことの証明書は、外国の公文書になるので、アポスティーユ等の認証が必要です。この翻訳文は専門翻訳業者ではなく本人が翻訳したもので問題ありません。

期間内に外国発行の公文書を翻訳して届出るのであれば、スムーズに手続きされると思います。期間を経過している場合や外国発行の証明書を紛失している場合は手続きが煩雑になります。

なお、国によっては外国籍を取得した時に日本の氏名ではない現地の氏名に変更していることもありますが、この場合は氏名の変更に関する証明書も必要になります。

人によって事情に違いがあり、特に市区町村だけでは対応できない場合は、届出後も追加資料を求められることもあり、できれば事前に戸籍担当者と相談しながら手続きの準備をするべきです。

国籍喪失を届出る窓口

国籍喪失届は、住所のある市区町村、本籍のある市区町村、在外日本領事館が届出の窓口になります。期間内に外国証明書を添付して届出る場合は、どの窓口でもスムーズに手続きが進むと思います。

しかし、特に期限を過ぎている、証明書を用意できないといった場合は、国籍喪失届が受理されないこともあります。本籍のある市区町村の戸籍担当者と連絡を取って、しっかり準備することをお勧めします。

国籍喪失届を出さないことのデメリット

国籍喪失を届出ていても、いなくても、領事館や市区町村が国籍を喪失したことを把握している場合は、日本人であることを前提にした公的サービスを受けられません(逆に日本人であることで生じる義務が消滅します)。また、日本国内に滞在する場合は、日本人ではないので在留資格の問題が常に付きまといます。(多くの場合は日本人の家族だと思うので、ビザは取得しやすいと思います)

特に注意が必要な人は、短期の滞在のビザを免除されている国の国籍を取得した人、日本国内に在住している人です。うっかり期間を過ぎて日本に滞在するとオーバーステイになるので、深刻な事態を招く可能性があります。

ちなみに、日本に住民票がある場合は、住民票が外国人住民票に切り替えられる場合と住民票が抹消され在留資格を取得したあと住民票を作り直す場合があります。

では、国籍喪失を出さないことのデメリットはどういったことがあるでしょうか?

日本国籍を喪失した人が相続人になったとき

両親や親族が亡くなり、日本国籍を喪失した人が相続人になったとき、大きな問題になります。以前は、国籍喪失未届でも対応してくれることもありました。しかし最近は、国籍喪失の手続きをしなければ相続手続きを拒絶されることが増えています。

なぜ国籍を喪失したことが相手にわかってしまうかというと、戸籍以外の相続手続きに必要な書類から日本人ではないことが分かるからです。

この場合、国籍喪失をすぐにでも届け出る必要がありますが、上記のとおり、戸籍に国籍喪失が記録されて除籍になるまで、例えば預金の解約ができない、不動産等の名義変更ができない等といったことになります。また国籍喪失の手続きに時間がかかる場合は、相続税の申告や相続放棄等、期限がある手続きに影響する可能性があります。

日本国籍を喪失した人が亡くなった場合

この場合は、日本の戸籍には死亡の記録ができません。

日本国内に本人の財産がまったくない場合は、ただ戸籍に記録が残り続け、何十年かあとに市区町村の職権で除籍されます。この場合でも、本人が相続人なっていて名義変更をしていない財産が存在することもありえるので、要注意です。

日本国内財産がある場合は、とても厄介なことになります。なぜならば、亡くなったご本人以外は外国籍取得/選択の詳細を知らない場合が多く、その国の法律では本人以外が国籍取得/国籍選択の証明書を取得することができないことも考えられるからです。

戸籍手続きの複雑化、困難化

法定の期間内に国籍喪失の届出をしなかった場合、国籍喪失届の受理のためのハードルが上がります。また記録として戸籍が残っているせいで、国籍喪失後に例えば婚姻届けや出生届等が受理されてしまい、喪失後の戸籍の記録を訂正する必要があることも多いです。

こういった場合、国籍喪失の届も戸籍訂正のいずれの手続きも、市区町村だけで対応できず、上級官庁の関与が必要になるので、手続きが終わるまで半年~数年の期間が必要になります。特に不慣れな市区町村や人口の多い市区町村の場合は、長期化する場合が多いです。

国籍喪失届後の手続き

日本国外に住んでいる人の国籍喪失届出後の手続きはあまり多くありません。

日本国外に住んでいる人の国籍喪失届出後の手続き
  • 日本国内の財産や契約の名義変更の手続き
  • 戸籍を訂正した場合は、訂正後の戸籍の確認や日本国籍のある家族に関する手続

日本国内に住んでいる人の場合は、国籍喪失届出後にビザの手続きや住民票の手続きが必要になります。

日本国内に住んでいる人の国籍喪失届出後の手続き
  • 日本の在留資格に関する手続き
  • 住民票に関する手続き
  • 日本国内の財産や契約の名義変更の手続き
  • 戸籍を訂正した場合は、訂正後の戸籍の確認や日本国籍のある家族に関する手続き

まとめ

以前はこういった手続きもおおらかに対応されていたようです。ところが、近年の本人確認等の厳格化にともなって、国籍喪失についても厳格に運用されるようになり、例えば、2020年~23年の日本入国のために原則ビザが必要であった頃に、国籍喪失届を出さなければビザを出さないといったこともありました。

国籍の喪失届の手続きは、喪失後すぐに手続きをすれば簡単に終わりますが、喪失後時間が経てばたつほど手続きは複雑になり、すべてが終わるまでに時間がかかります。

このため、相続の手続きを進められなかったり、期間の制限がある手続きができず、大きなペナルティを課せられることも考えられます。このペナルティは日本の行政罰も含まれるので、その後、日本の在留資格に悪影響を与えます。ですので、国籍を喪失したらすみやかに、既に喪失しているのなら今すぐにでも、国籍喪失届出をして、日本国内の法律関係をきれいにするべきだと考えます。

残念なことに戸籍担当者が不慣れであるといったこともまれにあるので、国籍・戸籍手続きに精通した専門家に相談されるのが良いと思います。

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よくある質問

  • 国籍喪失届とはどのような手続きですか?どのような場合に提出が必要ですか?
    国籍喪失届とは、自分の意思で外国籍を取得/選択した人が、自分に関する戸籍の記録を閉じるための手続きです。
    参考記事:外国籍も持っている日本人の日本国籍がなくなる場合と戸籍の届、消除の手続
  • 国籍喪失届はどこに、いつまでに、どのような書類を添えて提出すれば良いですか?
    国籍喪失届は、外国籍を取得/選択したことで日本国籍を失ったことを知った時から1か月又は3か月以内に、住民票又は本籍のある市区町村あるいは滞在国の日本領事館に届出ます。
    届出には、外国籍を取得/選択したことの証明書を添付しなければなりません。届出期間を過ぎている場合や、外国籍を取得後又は同時に身分関係に変更がある場合は、他の証明書等が必要になります。
    参考記事:外国籍も持っている日本人の日本国籍がなくなる場合と戸籍の届、消除の手続
  • 外国籍を取得した場合、必ず日本国籍を失いますか?どのような場合に日本国籍を失いますか?
    国籍喪失の条件は、自分の意思で外国籍を取得/選択することです。したがって、自分の意思に基づかずに外国籍を取得した場合は、日本国籍は失われません。例えば結婚や養子縁組等で配偶者/養親の国の国籍が付与される場合は日本国籍はなくなりません。ただし、この場合でもその国の公職に就いたり、その国の国籍を選択又は日本国籍の放棄があれば、日本国籍はなくなります。
  • 国籍喪失届を提出しないと、どのような不利益がありますか?相続や日本での生活、家族への影響について教えてください。
    国籍喪失を届出ていなくても、日本人としての権利義務はなくなります。ですので戸籍にご本人の記録が残っていても、日本人としての公的サービスを受けられません。また戸籍上は記録が残っていても、他の証明書から日本人ではないことは分かるので、相続の手続きができない/困難になります。
    日本国籍のある家族の方は戸籍の訂正手続が必要になり、複雑な手続きをする必要があることもあります。また国籍喪失後に生まれた日本在住の子供が日本国籍を取得していなかった場合は、在留資格・不法滞在が問題になります。
  • 国籍喪失届を提出した後、どのような手続きが必要ですか?戸籍の訂正が必要な場合はどうすれば良いですか?
    日本に在住している方は、日本の在留資格の問題があります。日本人の家族の方は影響は小さいですが、家族全員が日本人ではない場合は、複雑です。
    日本国籍喪失後に婚姻、出生、転籍等の戸籍届をしているときは、戸籍訂正の手続きが必要になります。
  • 国籍喪失に関して相談できる窓口はありますか?専門家(弁護士など)に相談する必要はありますか?
    国籍喪失後、届出の期間内であれば、専門家に相談する必要はないと考えます。領事館、市区町村の戸籍担当者と相談すれば十分です。外国発行の証明書については、翻訳と認証手続きが必要になるので、翻訳業者と相談されるのも良いとか思います。
    国籍喪失後、届出の期間を過ぎている場合、戸籍の訂正が必要な場合は専門家に相談するのも良いと思います。特に国籍喪失後に複数の戸籍にまたがって戸籍が作られている場合、本籍地の戸籍担当者が要領を得ない場合等は相談するべきだと思います。