離婚時に婚姻中の氏を継続した後、どこかのタイミングで「そろそろ旧姓に戻した方がよいのだろうか」と悩まれる方は少なくありません。
ただ、いざ手続きを調べ始めると、「家庭裁判所での手続きが難しそう」「理由をどう書けばいいのか分からない」「子どもに影響があるのでは」といった不安や心配が膨らんでしまうのも自然なことです。
旧姓へ戻すためには、家庭裁判所へ“氏の変更許可”を申し立てる必要がありますが、旧姓に戻す場合は、一般の氏の変更と比べて「やむを得ない事由」が広く認められる傾向にあり、それほど身構える必要はありません。
実際の手続きでは、特別な事情でなくとも、日常生活でのちょっとした不便さや家族との氏の不一致といった事情で許可された例が多くみられます。
- 手続きの流れや準備する書類
- 「やむを得ない理由」の考え方と裁判例のポイント
- 申立書に理由を書く際の工夫
- 子どもがいる場合や、離婚から時間が経っている場合の注意点
不安を抱えながら一歩を踏み出そうとしている方にも、「まずはここから確認すれば大丈夫」と思っていただけるよう、できる限りわかりやすくお伝えしていきます。
旧姓に戻すことへ不安を感じている方へ
旧姓に戻すことを考え始めたとき、多くの方がまず感じるのは、手続きが「難しそう」「自分にできるのか」という漠然とした不安です。特に、家庭裁判所での申立てと聞くと、専門的で複雑な印象があり、理由の書き方や子どもへの影響について心配される方も少なくありません。
実際、ご相談でも「戸籍の集め方が分からない」「申立書にどう書けば良いのか自信がない」といった声をよく伺います。しかし、旧姓に戻す手続きは、一般に想像されるほど難しいものではなく、必要なポイントさえ押さえれば落ち着いて進められる手続きです。
ここでは、旧姓に戻す際に多くの方が最初につまずきやすい不安や疑問を取り上げ、制度の概要を把握する第一歩として整理していきます。
手続きへの不安:難しそう・理由が書けない・子どもへの影響
旧姓へ戻す手続きを調べ始めると、「家庭裁判所の申立てが難しそう」「理由欄に何を書けば良いのか分からない」「子どもに影響が出るのでは」など、不安が一気に大きくなる方は少なくありません。
まず、戸籍などの証明書の収集については、令和6年3月から開始された戸籍の広域交付制度により、お住まいの市区町村で戸籍謄本をまとめて請求できます。古い戸籍がデータ化されていないといった特殊な事情がなければ、以前より簡単に揃えることができます。
また、申立書の「理由欄」についても、旧姓に戻す場合は一般の氏の変更と異なり、『やむを得ない事由』が幅広く認められる傾向があります。特別な事情を書かなければならないわけではなく、自分自身が感じている不便や違和感を、そのまま丁寧に記載すれば足りることが多いのが特徴です。
子どもへの影響についても、15歳以上・未満・成人しているかなどで取り扱いが異なりますが、裁判上の手続きでは大きな問題にはなりません。詳しくは 「子どもがいる場合の注意点(15歳未満・15歳以上・成人)」でケース別に説明します。
旧姓に戻す場合は『やむを得ない事由』が広く認められる理由
旧姓へ戻す場合、家庭裁判所は「形式的に不備がないか」「不当な目的がないか」という点を中心に審査します。一般の氏の変更申立てでは、強い必要性(やむを得ない事由)が求められますが、旧姓に戻す場合は考え方が異なります。
結婚・離婚に伴う氏の変動は法律上の制度として形式的に行われるものであり、離婚後に旧姓へ戻したいと考えることは社会生活上も自然な希望です。そのため、旧姓復帰の申立てでは、特別な事情や明確な証拠がなくても、一定の合理性が示されれば許可されるケースが多くあります。
例えば、同居家族との氏の不一致による不便など、比較的軽い事情でも『やむを得ない事由』として判断される例が多く見られます。詳細は次章の「旧姓に戻すための「やむを得ない事由」と裁判例」でお話します。
どのような事情が許可されやすいのか
旧姓に戻す際の不安の多くは、「どこまで理由を書けば良いのか」という疑問に結びついています。しかし、過去の裁判例や実務の運用を見ると、許可される事情の幅は非常に広く、深刻な事情がなくても認められるケースが多く見られます。
逆に、次のような事情があると、許可されない可能性があります。
- 同じ戸籍にいる子供からの強い反対がある場合
- 最初の婚姻直前の氏以外の氏への変更を希望している場合
- 結婚離婚や養子縁組離縁で、氏が短期間に複数回変わっている、またはそれに加えて名前も変更している場合
- 破産歴や犯罪歴などがあり、十分な期間が経過していない場合
- 多額の借金がある場合
一つ目の事情は、お子様の戸籍手続きをするなどの回避手段があります。(子どもがいる場合の注意点(15歳未満・15歳以上・成人))
二つ目の事情は、原則、許可されませんが、最初の婚姻以降に両親の氏が変わっているなど、親の氏の変動が原因である場合は、変更できる可能性があります。(本人の婚姻後に親の氏が変わっている場合、本人が子どもの頃に親の離婚で氏が変わっている場合)
三つ目から五つ目は、氏の変更にあたって一般的に許可できない不当な目的と判断され、許可されない可能性が非常に高いです。しかし、具体的な事情によっては許可を得られる場合もあります。
旧姓に戻すための「やむを得ない事由」と裁判例
旧姓に戻すための手続きでは、家庭裁判所に「やむを得ない事由」があることを認めてもらい、許可を得る必要があります。とはいえ、旧姓に戻すための申立てでは、一般の氏の変更よりも「やむを得ない事由」を広く認める傾向にあり、多くの方は日常生活の不便や家族関係の都合といった、ごく身近な理由で許可されています。
この章では、旧姓に戻す場合の「やむを得ない事由」がどう判断されてきたのかを、過去の裁判例をもとに制度的な観点から整理します。具体的な手続きについては、次の章「旧姓に戻す手続きの流れと準備」で詳しく触れます。
氏の変更許可の法律の位置づけ(戸籍法107条1項)
氏の変更は、戸籍法107条1項に基づき、家庭裁判所が「やむを得ない事由」があると認めた場合に許可されます。もっとも、この『やむを得ない事由』の解釈は、通常の氏の変更と旧姓に戻す場合とで考え方が大きく異なります。
参考:戸籍法107条1項
第百七条 やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、氏及び氏の振り仮名を変更することについて家庭裁判所の許可を得て、その許可を得た氏及び氏の振り仮名を届け出なければならない。
まず、通常の氏の変更については、昭和34年・37年・41年の高等裁判所の裁判例のとおり、非常に厳格な基準が採られてきました。これらの裁判例では、氏の変更は社会生活上の混乱を避けるため例外的にのみ認められるべきであり、以下の基準が明確に示され、一般の氏の変更では、強い必要性がない限り許可されない運用になっています。
- 個人的な好みや心理的抵抗といった主観的事情では足りないこと
- 社会生活上、氏を変更することに「著しい支障」があること
- 変更を認めても「社会的弊害が生じない高度の客観的必要性」が必要であること
一方、旧姓に戻す場合は、これらの厳格な基準がそのまま当てはまるわけではありません。旧姓への復帰は、離婚によって本来復氏するという民法の原則に沿うものであって、戸籍上に表示された氏を原則どおりに是正する手段であるため、通常の氏の変更とは性質が異なる部分があると私は理解しています。
このように、「氏の変更許可」という制度は同じであっても、旧姓に戻す場合は、従来の判例理論と制度の位置づけに照らし、より柔軟に判断されるのが現在の実務の傾向です。
参考:「やむを得ない事由」に関する裁判例
- 昭和34年の東京高等裁判所の裁判例
いわゆる「やむを得ない」とは、現在の氏の継続を強制することが社会観念上はなはだしく不当と認められる場合をいい、単に氏を変更する方が有利であるとか、現在の氏を称することが心理的、主観的に好ましいとか、その他現在の氏を称することにより、多少の不便、不都合があるというにすぎない場合は、これに含まれない。
- 昭和37年の東京高等裁判所の裁判例
改氏に必要とする「やむを得ない事由」とは、客観的にみて、なんびとがその氏を称しても、その氏のために社会的生活を営むのにはなはだしい支障があると考えられる場合を指すのであって、感情的にその氏が気に入らないということでは、いかにその嫌悪の感情が強くても、改氏の事由とならない。
この二つの裁判例では、感情的、主観的な理由は、氏を変更するためのやむを得ない事由にはあたらないこととしています。
- 昭和41年の札幌高等裁判所の裁判例
氏の変更を許容すべき「やむを得ない事由」とは、通姓に対する愛着や内縁関係の暴露を嫌うというような主観的事情を意味するのではなく、呼称秩序の不変性確保という国家的、社会的利益を犠牲にするに値するほどの高度の客観的必要性を意味する。
この札幌高等裁判所の裁判例は客観的必要性というものを要求しています。最近の改姓・改名手続きでは、この客観的必要性が特に重視される傾向にあります。
旧姓復帰が他の氏の変更より認められやすい理由
旧姓に戻すための申立ては、一般の氏の変更と比較すると「やむを得ない事由」の判断が柔軟で、許可されやすい傾向があります。その背景には、旧姓への復帰が制度上も社会生活上も自然な希望として理解されていることが挙げられます。
もともと、離婚をすると民法上は原則として旧姓に戻ります(復氏)。離婚後に婚姻中の氏を継続する「婚氏続称」は、制度上認められた例外的な取り扱いです。そのため、後から旧姓へ戻すことは、戸籍上の氏を本来の状態に戻すという意味合いを持ち、一般の氏の変更とは性質が異なる部分があると考えられます。
このような制度的背景から、旧姓復帰では、一般の氏の変更で求められるような「高度の客観的必要性」までは要求されません。日常生活における比較的軽い不便でも、一定の合理性が示されれば『やむを得ない事由』として認められた例が多くあります。
さらに、旧姓に戻ることは社会生活の中で理解されやすく、周囲とのコミュニケーション上も混乱が生じにくいという特徴があり、社会的な混乱が少ないことも、旧姓復帰が認められやすい理由の一つといえます。
もっとも、旧姓復帰であっても、不当な目的が疑われる場合には許可されません。破産や多額の債務、犯罪歴などを隠ぺいする目的があると判断されると、一般の氏の変更と同様に許可できない事由になりえます。もっとも、その後の事情により不当な目的がないと判断される場合には、許可を得られることもあります。
このように、旧姓復帰の申立ては、制度的にも社会的にも受け入れられやすく、強い事情がなくとも許可される可能性が高いのが特徴です。
裁判所が判断するポイント
旧姓に戻すための申立てでは、一般の氏の変更のように強い必要性までは求められませんが、家庭裁判所が必ず確認するポイントがいくつかあります。ここでは、審査の中心となる「形式的な問題の有無」と「不当な目的の排除」の二つを中心に整理します。
1.日常生活上の合理的な理由があるか
旧姓復帰では、一般の氏の変更のような「高度の客観的必要性」は求められませんが、日常生活で旧姓を使用する方が自然であるなど、一定の合理性があるかどうかは確認されます。また、「なぜ今手続きをするのか」という点も、不自然さがないかもチェックしていると考えられます。
旧姓に戻す申立ては、事情や手続きをする動機が比較的軽くても、許可されやすい傾向があります。
2.不当な目的がないか(制度の悪用を防ぐ観点)
旧姓復帰の審査で最も重視されるのは、氏の変更制度を悪用する目的がないかという点です。破産や多額の債務、犯罪歴などを隠ぺいする目的が疑われる場合には、一般の氏の変更と同様に許可されない可能性があります。
もっとも、これらの事情があること自体が直ちに不許可となるわけではなく、その後の経緯から不当な目的がないと判断できる事情があれば、許可される場合もあります。
以上のとおり、旧姓復帰の申立てでは、戸籍上の形式的な問題がなく、不当な目的がないことが確認できれば、特別な事情がなくても比較的柔軟に判断されるのが現在の運用といえます。
許可された裁判例
これまでの裁判例を見ると、旧姓に戻す場合の『やむを得ない理由』は、一般の氏の変更と比較して大きく緩和されていることが分かります。高等裁判所の判断では一貫して、旧姓復帰が「法律の原則への回帰」であり、社会生活上の混乱が生じにくい点が重視されています。
まず、昭和58年東京高裁の判断では、旧姓へ戻ることは“法律の原則”に沿うものであり、特に支障がなければ『やむを得ない理由』を緩やかに解釈すべきであるとされました。また、婚氏続称を選んだ事情に落ち度があっても、悪意がなければ許可すべきとしています。
次に、平成3年大阪高裁では、婚氏続称の理由や旧姓に戻そうと考えた動機は、申立ての可否に大きな影響を与えないとされました。日常生活上の不便・不自由といった軽微な理由でも、旧姓復帰に合理性があれば『やむを得ない理由』にあたると判断された点が特徴です。
さらに、平成6年福岡高裁では、旧姓に戻す申立てが「恣意的でないこと」「社会的弊害を生じるおそれがないこと」を条件として、緩やかな解釈を採用すべきと示されています。不当な目的がなければ、原則として許可される方向性が明確に示されたといえます。
参考:昭和58年の東京高等裁判所の裁判例
離婚時に、手続的な必要性があったので、婚姻中の氏を名乗り続けた方が、手続きが終わった後に、婚姻前の氏に戻そうと家庭裁判所へ旧姓に戻すための氏の変更許可申立をしました。しかし、家庭裁判所が許可しなかったので、高等裁判所へ不服を申立て、高等裁判所は旧姓に戻すことを許可しました。
高等裁判所は、
法律の原則はあくまで離婚により復氏することにあるのであるから、本件申立は法律の原則に沿うものというべく、なんら関係のない氏を創設しようとする場合と異なり、これを認めうることによって社会生活上の混乱ないし弊害が考えられないばかりでなく、却って婚氏を将来とも称することによって社会生活上の混乱ないし弊害が生じるおそれが多分にある。
法律の原則に沿い復氏を求める氏の変更申立は、これによって格別の支障が生じない限り、戸籍法107条1項に定める『やむを得ない事由』を緩和して解釈し、これを許可すべきである。
と判断して許可しました。
要約すると、(無関係な氏ではなく)旧姓に戻すことは法律の原則に戻ることであって、社会的な弊害は考えられない。むしろ、婚氏を続称し続けることが社会生活上の弊害が考えられる。だから、『やむを得ない理由』を広く解釈して、特に問題が発生しないようであれば、旧姓に戻すことを許可すべきだ、ということです。
事情として、この方が手続き的な必要があると考えたことが誤解で、婚氏続称をしても、旧姓に戻っていても、手続きは問題なくすることができました。裁判所は、これが申立てをした方の落ち度だと指摘していますが、落ち度があっても悪意があるわけではないと考えたうえで、『やむを得ない理由』があるものとして、旧姓に戻すことを許可しています。
参考:平成3年の大阪高等裁判所の裁判例
特に理由はなく婚氏続称した方が、離婚後10年以上経過した後に、郵便物の誤配送や同居する両親と氏が違うことを説明することが煩わしいと考え、家庭裁判所へ氏の変更を申立て、許可されなかったので、高等裁判所へ不服申立をしたケースです。
大阪高等裁判所は、まず婚氏続称と戸籍法107条1項の法律的な意味について、離婚によって婚姻前の氏に民法上は戻っているが、婚氏を続称する必要性(例えば未成年の子供の氏の関係)があるので、例外的に婚氏続称が認められていて、婚氏続称届をしても戸籍の表示上の氏を婚姻中の氏にしているだけだ、としました。
あくまで戸籍の表示の問題であることを前提に、
このような見地からは、離婚をして婚氏の続称を選択した者が、その後婚前の氏への変更を求める場合には、戸籍法107条の『やむを得ない理由』の存在については、これを一般の場合ほど厳格に解する必要はない
と示して、日常生活上の不便・不自由があることで、『やむを得ない理由』があるとして、旧姓に戻すことを許可しました。
- 婚氏続称をした理由は、あまり重要ではない。
- 旧姓に戻す場合の『やむを得ない理由』は、厳しく判断しない。
- 日常生活の不便・不自由程度でも『やむを得ない理由』とする。
特に3番目のポイントは、通常の氏の変更と比べて、とても重要な点だと考えます。
参考:平成6年の福岡高等裁判所の裁判例
この裁判例はいままでの裁判例を踏襲して、旧姓に戻す場合は、一般の氏の変更の場合よりも、『やむを得ない理由』を緩やかに解釈すると判断して、旧姓に戻すことを許可しました。
婚氏続称は離婚後3か月間の考慮期間が設けられていて、その間によく考えて慎重に婚氏を続称を選択するべきで、そのうえで選択した以上は氏の変更と同様に、旧姓に戻す場合を特別扱いする理由はないという見解があることを紹介し、
しかし、現実には、婚氏続称の選択に至る事情として、制度についての無知や自らの意思に反しつつも婚氏を選ばざるを得ない場合など様々なものが存在するから、厳格な解釈により婚姻前の氏への変更の道を閉ざすよりも、緩やかな解釈をとりつつ、それによる申立乱用の弊害の防止策を考慮するのが相当である。
として、
婚姻前の氏への変更の申立てが恣意的なものでなく、かつ、その変更により社会的弊害を生じるおそれのないような場合には、婚姻前の氏への変更を許可するのが相当である。
と旧姓に戻すことを許可しました。
- 恣意的な申立てでないこと
- 氏を変更することで社会的弊害を生じる恐れのないこと
どういった場合がこれにあたるかは、具体的に挙げられていませんが、一般的に氏の変更が許可されない、犯罪歴や破産歴を隠すために氏の変更をするような場合や、頻繁に氏名を変更しているような場合は、旧姓に戻す場合であっても許可されないものと考えられます。
これらの裁判例を総合すると、旧姓に戻す場合の判断基準は、「日常生活上の合理性」「不当な目的の排除、社会的弊害の有無」がポイントです。特別な事情がなくても、生活の整合性や自然な流れが確認できれば、旧姓に戻すための『やむを得ない理由』が認められやすいのが実務の傾向です。
旧姓に戻す申立てについては、これらの裁判例からも分かるとおり、日常生活上の整合性が取れていれば柔軟に判断される傾向があります。では、こうした考え方を踏まえ、次の章で申立ての準備、申立書に記載するポイントを整理して解説します。
旧姓に戻す手続きの流れと準備
旧姓に戻すには、家庭裁判所へ申立てを行い、許可を得たうえで、氏の変更を届け出なければなりません。
この章では、申立ての準備から審判、氏の変更届の提出までの流れを確認し、それぞれの段階で注意したいポイントを解説します。
手続き全体の流れ:申立て → 審判 → 届出
旧姓に戻すための手続きは、次の3つの段階で進みます。(1)家庭裁判所への申立て、(2)裁判所の審査、(3)市区町村への氏の変更の届出です。特別に複雑な手続きではありませんが、それぞれの段階で必要書類や確認すべき点があります。
まず、家庭裁判所に「氏の変更許可申立書」と戸籍関係書類を提出します。申立書が受理されると、書類審査が行われ、多くの場合は申立書の内容と提出資料をもとに審理が進みます。旧姓復帰の場合は、一般の氏の変更より手続きが簡易なことが多く、書類の審査だけで結果がでることも珍しくありません。
次に、家庭裁判所の審判がされます。許可された場合は、審判書を受け取って、その確定(審判書を受け取ってから2週間後)を待ち、確定証明書を取得します。この審判書と確定証明書が、市区町村での届出に必要となる書類です。
最後に、審判が確定した後、市区町村に「氏の変更届」を提出します。届出が受理されて初めて、戸籍上の氏が旧姓に戻ります。届出の期限は法律上定められていませんが、早めに提出しておくと後の手続きがスムーズです。
このように、旧姓に戻す手続きは「申立て」「審判」「届出」という3つの流れを順に進めるだけです。次の項目では、申立てに向けて準備する書類や、戸籍のそろえ方について詳しく解説します。
事前に準備すべき書類(戸籍・附票など)
旧姓に戻すための申立てでは、まず必要な戸籍関係書類をそろえることから始めます。裁判所が確認をするのは、結婚直前の戸籍の氏とその後どのように氏が変動してきたかという経緯です。
一般的には、結婚の直前から現在までの全ての戸籍をそろえて、家庭裁判所へ提出する必要があります。しかし、管轄の裁判所によっては、結婚直前の氏が分かるのであれば現在の戸籍だけでも受け付ける裁判所もあります。(首都圏の場合は結婚直前から現在までの全ての戸籍が必要)
以前は、それぞれの本籍地の市区町村に個別に請求する必要がありましたが、令和6年3月から開始された戸籍の広域交付制度により、お住まいの市区町村でまとめて取得できるようになりました。本籍地の市区町村と住んでいる市区町村が違っていても、一度窓口で請求すれば、必要な戸籍がそろえられます。
もっとも、戸籍が紙のままでデジタル化されていないなど特殊な事情がある場合は、広域交付の対象外となる戸籍もあります。その場合は、取得できなかった本籍地の市区町村へ、郵送または窓口で個別に請求することになります。
また、本籍が不明な場合は、住民票(本籍が記載されたもの)を取得して確認する必要があります。住民票も広域交付の制度がありますが、ここでは詳しく取り上げません。
戸籍がそろえば、次は申立書の作成に臨みます。旧姓に戻す申立てでは、現在の生活状況や旧姓を使いたいと考えるようになった経緯をまとめておくと、申立書が作成しやすくなります。
なお、戸籍の取得方法については、令和6年から始まった「戸籍の広域交付制度」により大きく変わっています。制度の概要や、戸籍が取得できないケースについては、以下にまとめています。
戸籍の広域交付制度とは?
戸籍の広域交付(戸籍証明書等の広域交付)制度は、令和6年3月から開始された新しい制度で、本籍地以外の市区町村でも戸籍謄本を請求できるようになった仕組みです。
対象となるのは、本人・配偶者、父母・祖父母などの直系尊属、子・孫などの直系卑属の戸籍が対象で、兄弟姉妹・その子供や孫の戸籍は対象外です。現在はほぼすべての戸籍が取得できるようになっていますが、一部デジタル化に適さない戸籍などは対象になっていません。
手続きは、本人が必ず市区町村の窓口にいく必要があり、郵送での請求や代理人による請求はできません。
また、請求から実際に戸籍が交付されるまで時間がかかり、受付時間を制限している市区町村や予約制にしている市区町村もあるので、事前に窓口に電話で確認すると良いでしょう。
旧姓に戻すための申立ての場合であれば、「広域交付の制度で戸籍を請求したいこと」「自分の(最初の)結婚から現在までの戸籍のすべてが欲しいこと」を市区町村の窓口に伝えれば十分です。
過去の戸籍が除籍又は改製原戸籍になっている場合は、費用が高額になりますが、電子マネーやクレジットカードに対応している市区町村も多くなっているので、支払方法も電話で確認すると良いでしょう。
必要な戸籍の取得方法について不明な点があっても、市区町村の窓口で相談しながらそろえることができますので、過度に心配する必要はありません。戸籍がそろったら、次は申立書の作成に進みます。申立書には、旧姓に戻したい理由を簡潔にまとめて記載する必要があり、次の項目で具体的な書き方を説明します。
申立書の書き方:理由欄のまとめ方と注意点
まず形式的なポイントは、「申立ての趣旨」の欄は、「申立人の氏(現在の戸籍上の氏)を(手続き後に戻る氏)と、氏の振り仮名(現在の戸籍上の氏のフリガナ)を(手続き後に戻る氏のフリガナ)と、それぞれ変更することの許可を求める。」と記入しなければなりません。令和8年5月までで、戸籍に氏の振り仮名が記録されていない場合は(現在の戸籍上の氏のフリガナ)を記入する必要はありません。
次に、氏の変更許可申立では、申立書の2ページ目にある「申立ての理由」の欄がとても重要ですが、この欄は旧姓に戻す必要性がある事情を、裁判所に分かるように説明するためのものです。特別な形式はありませんが、現在までの経緯や、旧姓に戻すことが自然で合理的であることが伝わるように記載することが大切です。
旧姓復帰の場合、『やむを得ない理由』の判断は一般の氏の変更より緩やかですが、離婚から現在までの事情や、婚氏続称を選んだ理由、旧姓に戻そうと考えるに至った経緯などを整理しておくと、裁判所に伝わりやすい文章になります。
特に、次の点を押さえて記入することをおすすめします。
- ① 婚氏続称を選択した当時の事情
例:未成年の子の氏との一体性を重視した/職場などの名義変更手続きの負担を避けた など - ② 旧姓に戻そうと考えた理由
例:生活の節目(転職・引越し・子の独立)/旧姓の方が説明が不要で日常生活がスムーズ など
申立ての理由欄の最初のブロックは、「1 婚姻前の氏にしたい。」に〇をしてください。その下の枠には、申立てをする具体的な理由を記入します。
文章は、2~3段落程度にまとめるか、箇条書きでも問題ありません。大切なのは、旧姓に戻すことが現在の生活にとって無理のない自然な選択であることが分かるように書くことです。特に複雑な事情がある場合や、離婚後長期間経過している場合は、ここで丁寧に事情を説明するべきです。
旧姓に戻す理由欄に何を書くべきか迷う方も多いですが、裁判所は旧姓復帰について柔軟に判断する傾向があります。特別な事情がなくても、現在の事情を正直に、整理して書けば十分です。
次の項目では、審判後の届出について注意すべきポイントを解説します。
氏の変更申立書の作成一般に関する記事へのリンク
改姓の手続き|苗字を変更するための手続きを司法書士が徹底解説 3.氏の変更許可申立書の作成許可後の手続き:氏の変更届と戸籍への反映
旧姓に戻す申立てが家庭裁判所で許可されると、次は市区町村での「氏の変更届」の手続きを行います。この届出が受理されて初めて、戸籍上の氏が旧姓に戻ります。ここでは、審判書の受領から届出、戸籍への反映までの流れを順に解説します。
1.審判書の受領と審判の確定
許可の審判がされると、家庭裁判所から「審判書」が発行されます。裁判所に出頭している場合はその場で受け取れる場合もあります。郵送による場合は書留郵便(特別送達)で発送されます。
審判書を受け取っただけでは、まだ氏の変更の届出はできません。届出のためには許可の審判が確定する必要があり、審判は、審判書を受け取った後2週間経過すると確定します。
確定後に、家庭裁判所で「確定証明書」を取得できるようになります。通常は、審判書を受け取る際にあわせて、「確定証明申請書」も裁判所から交付されるので、この申請書に必要事項を記入して、担当の書記官に申請してください。
なお、確定証明書の発行手数料は150円分で、収入印紙を納めます。郵便局や裁判所の売店などで購入すると良いでしょう。
2.市区町村への氏の変更届の提出
許可の審判が確定したら、市区町村に「氏の変更届」を提出します。提出先は、本籍地または届出人の住所地の市区町村のいずれかです。
届出の際に必要書類などは次のとおりです。
- 氏の変更届
- 家庭裁判所の審判書
- 審判が確定したことの確定証明書
- 本人確認書類(運転免許証など)
提出期限は法律上定められていませんが、審判確定後、早めに届出をすることをおすすめします。届出が受理されて初めて、戸籍上の氏が旧姓に戻ります。
3.戸籍への反映と、必要書類の取得
市区町村で届出が受理されると、戸籍に旧姓へ変更した旨の記録がされます。戸籍の反映には2~3週間程度の時間がかかります。
銀行口座や免許証などの名義変更の手続きには、氏の変更が反映された新しい戸籍謄本又は住民票が必要になりますが、手続き先に戸籍が必要か、住民票でも構わないかを事前に確認するとスムーズに手続きできます。
4.旧姓に戻った後に必要となる手続き
戸籍上の氏が旧姓に戻った後は、次のような名義変更の手続きが必要になります。
- 運転免許証・マイナンバーカードなど本人確認書類の変更
- 年金・健康保険など社会保険の手続き
- 銀行口座・保険・クレジットカード・携帯電話等の名義変更
- 勤務先での氏名変更手続き
氏の変更届書の作成一般に関する記事へのリンク
改姓の手続き|苗字を変更するための手続きを司法書士が徹底解説 5.裁判所の許可を得た後の苗字・氏の変更届状況別にみる旧姓復帰のポイント
旧姓に戻す申立てでは、『やむを得ない理由』の判断は一般の氏の変更よりも柔軟に行われますが、離婚後の状況や現在の生活環境によって、手続き上のポイントが少しずつ異なります。
この章では、よく見られるパターンごとに、旧姓に戻すための申立てで押さえておきたいポイントを整理します。
子どもがいる場合の注意点(15歳未満・15歳以上・成人)
詳細はここをタップ/クリック
同じ戸籍に子供が記録されている場合は、手続きによって同じ戸籍にいる人の氏が変わるので、手続き上の手間が増えます。許否に直接影響するわけではありませんが、重要なポイントです。
同じ戸籍に15歳未満の子供がいる場合
15歳未満の子供が同じ戸籍にいる場合は、申立てにあたって特別な対応は不要です。
同じ戸籍に15歳以上の子供がいる場合
15歳以上の子供がいる場合は、その子供の同意を求められます。申立ての際に同意書もあわせて、裁判所に提出すると手続きがスムーズになります。同意書がない場合は子供宛に裁判所から通知があることがあります。
同意がないからと言って、必ず許可されないというわけではありませんが、手続きが長期化することも考えられます。
どうしても子供の同意が得られない場合は、元配偶者の戸籍に入籍する手続きをしてもらうことで、子供が現在の戸籍から移動し、手続き上の問題を解決できます。
同じ戸籍に成人した子供がいる場合
成人した子供が同じ戸籍にいる場合は、15歳以上の子供がいる場合と同じですが、どうしても同意が得られない場合に、分籍の手続きをして別戸籍に移動してもらうことも可能になります。
離婚から長期間が経過している場合(10年以上など)
詳細はここをタップ/クリック
以前は、離婚をしてから長い時間が経過してからの旧姓に戻すための氏の変更については、管轄の家庭裁判所や担当する裁判官次第で許可・不許可が分かれていました。
しかし、現在は離婚から長い時間が経っていても、全く問題になりません。もっとも、長期間が経過してから、なぜ今旧姓に戻ろうと考えたかは気にされるポイントになりうるので、動機を丁寧に説明すると手続きがスムーズに進みます。
第2章の許可された裁判例で触れた平成3年の大阪高等裁判所の決定以降も、東京高等裁判所平成26年10月2日の決定で離婚から15年以上経過していても、旧姓に戻す氏の変更を許可しています。
現在の実務では、離婚からの期間はほとんど問題にならず、その期間に支障となる特殊な事情がない限りは、許可を得ることができます。
また、この裁判例では、旧姓を通称氏として名乗ってたことも考慮していますが、現在の実務では、通称氏の使用が許否を分ける決定的な要素にはなりません。
東京高等裁判所の決定(具体的な情報は、分からないように編集しています。)
離婚後15年以上,婚姻中の氏である「A」を称してきたのであるから,その氏は社会的に定着しているものと認められる。しかし,からすれば,本件申立てには,戸籍法107条1項の「やむを得ない事由」があるものと認めるのが相当である。
- 離婚に際して離婚の際に称していた氏である「A」の続称を選択したのは,当時小学生であった子供のためであることが認められ,子供は,申立時に大学を卒業していたこと,
- 抗告人は,離婚後,抗告人の婚姻前の氏である「B」姓の両親と同居し,その後,9年にわたり,両親とともに,屋号で近所付き合いをしてきたこと,
- 抗告人には,兄弟がいるが,両親と同居している抗告人が,両親を継ぐものと認識されていること,
- 子供は,抗告人が氏を「B」に変更することの許可を求めることについて同意していること
結婚と離婚を複数回している場合
詳細はここをタップ/クリック
複数の結婚・離婚を経験していることは、旧姓に戻す手続きにあたって大きな支障になりません。ただし、短期間に氏が何度も変わっていることが「不当な目的があるのではないか」と、裁判所の疑いを招くことがあります。
そのため、それぞれの結婚・離婚の経緯や、離婚時に婚氏を選んだ理由について、申立書で簡潔に説明することが重要です。
婚氏続称による氏の変遷の具体例
次のように結婚と離婚・婚氏続称をした人は、最後の離婚時には「高橋」さんになり、婚氏続称の届をすると「田中」さんになります。その後に裁判所の許可を得て「佐藤」さんにすることができます。
- 結婚前:佐藤さん
- 結婚後:鈴木さん
- 離婚後も続称:鈴木さん
- 再婚:高橋さん
- 離婚後も続称:高橋さん
- 再婚後:田中さん
- 離婚
この場合も、従前は管轄裁判所や担当裁判官によって、許可・不許可の判断が分かれていました。
しかし、の東京高等裁判所の決定では、複数の結婚と離婚があり、途中で婚氏続称をしていても、問題なく結婚直前の旧姓に戻すことができるようになりました(上の例であれば「佐藤」さん)。
最初の離婚に際して婚氏「A」を選択したため,2度目以降の離婚に際してもはや民法767条によっては最初の婚姻前の氏である生来の氏「B」に復することができなくなったものである。したがって,本件は,離婚に際して婚氏を称することを届け出た者が婚姻前の氏と同じ呼称にしたい旨の申立てとは異なるが,生来の氏への変更を求めるものであるから,婚姻前の氏と同じ呼称に変更する場合に準じて,氏の変更の申立てが恣意的なものであるとか,その変更により社会的弊害を生じるなどの特段の事情のない限り,その氏の変更を許可するのが相当である。前記認定の事実によれば,抗告人が本件氏の変更許可を求める動機や事情を考慮すると,本件申立てが恣意的なものとはいえないし,抗告人の氏が「B」に変更されることに特に社会的に弊害があるとは認められず,戸籍法107条1項所定のやむを得ない事由があるものと認めることができる。
そうすると,抗告人の氏を生来の氏「B」と変更することを許可するのが相当である。
別の例では、の札幌家庭裁判所の審判があります。これは最初の離婚時に婚氏続称をしたために、2度目の離婚の際に旧姓を選択できなかったという場合です。
婚姻が二度に亘り,いずれの婚姻においても改氏した配偶者についても,わが民法は最初の離婚に際し婚姻前の氏に復し,二度目の離婚に際しても婚姻前の氏に復することにより,二度目の離婚に際しそも最初の婚姻前の氏に復することを原則としているものと解せられるから,かかる配偶者から,最初の離婚に際し婚氏を選択したため,二度目の離婚に際してはもはや民法767条によつては最初の婚姻前の氏に復することができないことから,戸籍法107条1項により最初の婚姻前の氏に復するための氏の変更許可の申立てがなされた場合にも,前同様に,上記条項の適用にあたり一般の氏の変更の場合と異る緩やかな解釈をすることが許されるものと解するのが相当である。
すなわち,最初の離婚に際し選択した婚氏が,最初の離婚後の氏として社会的に定着したとは未だ認め難い期間内に二度目の婚姻が成立し,かつ,二度目の離婚後の氏も,社会的に定着したとは未だ認め難い期間内に最初の婚姻前の氏に復するための氏の変更が求められた場合であつて,その変更が特に申立人の恣意によるとか,変更により社会的弊害が生じるとかの特段の事情がない限り,かかる氏の変更は許可して差支えないものと解される。
このように、複数回の結婚・離婚と婚氏続称があっても、「生来の氏に戻る」という自然な流れが確認できれば、許可される運用が現在の実務です。
本人の婚姻後に親の氏が変わっている場合
詳細はここをタップ/クリック
本人が(最初の)結婚したあとに、両親の離婚・再婚・養子縁組など両親の氏が変わっている場合では、現在の親の氏と、本人の婚姻前の旧姓とが一致しないことがあります。
- 両親の氏:佐藤さん
- 両親の離婚後:高橋さん
- 結婚後:鈴木さん
- 離婚後も続称
- 婚姻中の氏:佐藤さん
- 離婚後:高橋さん
- 本人が結婚後、親が再婚して:伊藤さん
旧姓に戻す手続きで戻る氏は、あくまで本人の婚姻直前の戸籍に記録されていた氏です。したがって、この例では「高橋」さんに戻すことができます。
一方で、現在の親の氏「伊藤」さんを名乗りたい場合には、裁判所の許可を得て変更することができます。ただし、親の再婚後の家族構成、本人と親の関係などの影響で、通常よりも難易度が高くなることがあります
もし、両親の婚姻が継続している場合は市区町村への届出だけですることができます。
しかし、親が亡くなった後に、亡くなった時の氏「伊藤」さんへ変更するには、一般の氏の変更許可手続き(戸籍法107条1項)と扱われ、「やむを得ない事由」の有無を厳格に審査されます。
本人が子どもの頃に親の離婚で氏が変わっている場合
詳細はここをタップ/クリック
ここでいう「旧姓」とは、生まれたときの氏ではなく、あくまで最初の結婚直前の氏を指します。したがって、裁判所の許可を得て旧姓に戻す場合は、(最初の)結婚直前の氏が原則です。
- 両親の氏:佐藤さん
- 両親の離婚後:高橋さん
- 結婚後:鈴木さん
- 離婚後も続称
この場合、戸籍法107条1項の氏の変更許可申立てによって「高橋」さんに氏を戻すことができますが、この手続きでは「佐藤」さんに直接変更することができません。
「佐藤」さんを名乗る手続きは、後ほど、詳細を説明します。
親の再婚後、親の再婚相手と養親縁組している場合
両親の離婚後に、親が再婚してさらに氏が変わっている場合は、手続が少し複雑になります。
この場合、戻すことができる旧姓は、「田中」さんです。「高橋」さんにするためには養子縁組を解消する必要があります。しかし、本人の離婚・婚氏続称以前に養子縁組を解消している場合は、氏の変更許可申立の手続きで「高橋」さんに直接戻ることができます。
親の再婚後、再婚相手と養親縁組せずに、親の戸籍に入っている場合
親が再婚した相手の戸籍に入り「田中」さんになると、養子縁組の手続きをせず、裁判所の許可を得て「田中」を名乗ることができます。
- 両親の氏:佐藤さん
- 両親の離婚後:高橋さん
- 親の再婚相手の戸籍に入る:田中さん
- 結婚後:鈴木さん
- 離婚後も続称
この場合も、氏の変更許可申立ての手続きで戻すことができるのは「田中」さんだけです。親が「田中」さんと婚姻関係にある限り「高橋」さんへ変更するには、通常の氏の変更許可申立となり、「やむを得ない事由」を厳格に判断されます。
両親の離婚前の佐藤さんに戻したい場合
この場合は、手続き自体が別のものになります。難易度はもう一人の親「佐藤」さんが生存しているかどうかで大きく変わってきます。
「佐藤」さんが生存している場合は、子の氏の変更(子の入籍の手続き)をつかって、「佐藤」さんの戸籍に復帰することになります。
「佐藤」さんが亡くなっている場合は、通常の氏の変更許可申立手続きになり、原則どおり「やむを得ない事由」を裁判所から求められます。積極的に許可されている裁判例というものは見当たりませんが、私個人としては、簡単に許可されても良いと考えています。しかし、少なくとも「佐藤」を通称氏として名乗っていることは、求められると考えられます。
まとめ|離婚後に旧姓に戻したい方へ
離婚後に旧姓へ戻す手続きは、一般の氏の変更と比べると柔軟に判断されることが多く、特別な事情がなくても許可されやすいです。これまでの裁判例でも、旧姓に戻ることは「法律の原則への回帰」であり、特段の支障がない限り旧姓に戻すことは広く認められます。
一方で、申立書に記載する理由や、戸籍のそろえ方、子どもが同じ戸籍にいる場合の同意の有無など、状況に応じて注意すべき点もあります。特に、離婚から時間が経っている場合や、婚氏続称を選んだ経緯が複雑な場合は、申立ての理由を丁寧に整理しておくことが大切です。
旧姓に戻す手続きは、「必要書類の準備」「申立て」「家庭裁判所の審査と審判」「市区町村への届出」という4つの流れを順に進めるだけで、手続き自体は決して難しいものではありません。戸籍関係書類がそろえば、申立書の作成もスムーズに進められます。
離婚後に旧姓に戻したいと考える理由は、人によってさまざまです。旧姓に戻すことを検討している方は、まず現在の戸籍や生活状況を整理し、「どのような事情で旧姓に戻したいと考えているのか」をまとめておくと、手続きを進めやすくなります。必要に応じて、専門家に相談しながら進めるのも一つの方法です。
よくある質問|離婚後に旧姓に戻したい方へ
離婚後に婚氏を選択しましたが、今から旧姓へ戻すことはできますか?どのような点を説明すべきでしょうか?
はい、可能です。離婚から現在までの経緯と今旧姓に戻そうと考えた動機を説明するとよいでしょう。
旧姓に戻すために必要な『やむを得ない理由』とは、どのような内容が求められるのでしょうか?
通常の氏の変更と違って、旧姓に戻す場合には『やむを得ない理由』が緩和されるので、現状をそのまま説明できれば十分です。
結婚と離婚を複数回している場合、旧姓に戻すための氏の変更に不利に働くことはありますか?
原則、不利になりませんが、直近で頻繁に結婚離婚を繰り返して氏が変わっている場合は、認められないこともあります。
同じ戸籍に15歳以上の子どもがいる場合、必ず同意が必要でしょうか?同意が得られないときはどうなりますか?
必ず必要とは言えませんが、手続きの長期化も考えられます。先に戸籍の手続きをして、お子様を別の戸籍に移すことも検討すると良いでしょう。
旧姓に戻す手続きの費用は、裁判所と市区町村のそれぞれでどの程度かかりますか?
裁判所の費用は収入印紙が800円、郵便切手がおおよそ1,500円から3,000円程度、市区町村の費用は戸籍の証明書代で1,500円程度から戸籍の数が多い場合は数千円になることもあります。
婚姻後に親の氏が変わっているのですが、旧姓に戻す手続きに影響はありますか?
旧姓に戻す場合は影響がありませんが、親の現在の氏へ変更する場合は別の手続きをする必要があります。
子どもの頃に親の離婚で氏が変わっていますが、生まれたときの氏に戻すことはできますか?
生まれたときの氏にする場合は、親の状況によって、いくつかの手続きを検討する必要があり、状況によっては変更が難しいこともあります。