改名・改姓の手続きをするにあたって、変更の効力が発生するのはいつなのかという質問を受けることがあります。また、名の変更と氏の変更を同時に届け出たい、あるいは他の戸籍届と一緒に提出したいというご相談も少なくありません。
名の変更・氏の変更の効力は、家庭裁判所の許可の審判の日やその確定日ではなく、市区町村に提出した変更届が受理された日に生じます。この点を理解するには、戸籍の届出が「報告的届出」と「創設的届出」のどちらに分類されるかを確認することが出発点になります。
この記事では、名・氏の変更届の効力発生日と、複数の戸籍届を同時に提出する場合の注意点について解説します。
報告的届出と創設的届出
戸籍の届出は、その性質によって「報告的届出」と「創設的届出」の2種類に大別されます。この分類は、効力発生日や届出期限の考え方に関わるため、実務上も重要な区別です。以下に、それぞれの特徴と具体例を示します。
報告的届出とは
報告的届出とは、すでに発生した事実または法律関係を戸籍に記録するための手続きです。法的な効力はすでに生じており、届出はその事実を戸籍に反映させる行為にすぎません。そのため、届出が遅れたとしても、すでに確定した法律関係が遡って変わることはありません。
代表例として、出生届と死亡届が挙げられます。
参考:戸籍法49条1項
第四十九条 出生の届出は、十四日以内(国外で出生があったときは、三箇月以内)にこれをしなければならない。
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参考:戸籍法86条1項
第八十六条 死亡の届出は、届出義務者が、死亡の事実を知つた日から七日以内(国外で死亡があつたときは、その事実を知つた日から三箇月以内)に、これをしなければならない。
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出生届の場合、子が生まれた事実は届出の前に発生しています。届出が14日の期限を過ぎたとしても、出生日が動くことはありません。死亡届も同様に、死亡という事実が先行しており、届出はその事実を後から戸籍に記録する役割を担います。
創設的届出とは
創設的届出とは、届出を行うことによってはじめて法的な効力が生じる手続きです。届出がなければ法律上の変動は起きておらず、届出の日が効力発生日となります。
代表例として、婚姻届や協議離婚届が挙げられます。
参考:戸籍法74条
第七十四条 婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、これを届け出なければならない。
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参考:戸籍法76条
第七十六条 協議離婚をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、これを届け出なければならない。
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婚姻届の場合、当事者間でどれほど結婚の合意があっても、届出をしなければ法律上の夫婦にはなりません。協議離婚届も同様で、夫婦間で離婚の合意が成立していても、届出がなければ法律上は婚姻関係が継続します。窓口で届出が受理された日が、婚姻または離婚の効力発生日です。
届出の種類が状況によって変わる場合
同じ「離婚」であっても、どのような手続きを経たかによって、届出の性質が報告的届出になるか創設的届出になるかが分かれます。協議離婚と裁判離婚の対比がその典型です。
当事者の合意による協議離婚の届出(戸籍法76条)は創設的届出であり、市区町村の窓口に届け出た日に離婚の効力が生じます。
一方、調停・審判・判決などによる裁判離婚の届出(戸籍法77条)は報告的届出です。離婚の効力は裁判が確定した日にすでに生じており、その後の届出は、確定した事実を戸籍に記録するための手続きにすぎません。
参考:戸籍法77条1項
第七十七条 第六十三条の規定は、裁判離婚の場合にこれを準用する。
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このように、同じ「離婚届」という名称であっても、手続きの経緯によって法的な性質は異なります。認知についても同様の構造があり、任意認知(戸籍法60条)は創設的届出、裁判認知(戸籍法63条)は報告的届出に分類されます。(ただし、認知による法律上の効果は、生まれたときにさかのぼります。)
届出期限の考え方の違い
報告的届出と創設的届出では、届出期限の考え方にも違いがあります。
報告的届出には、届出義務者と届出期限が定められているものが多くあります。たとえば、出生届は原則として出生の日から14日以内、死亡届は死亡の事実を知った日から7日以内に届け出る必要があります。期限を過ぎた場合は、5万円以下の過料という制裁を受ける可能性があります(戸籍法135条)。ただし、期限後であっても届出自体は受理され、法律関係が無効になるわけではありません。
これに対し、創設的届出は、届出によってはじめて効力が生じる手続きです。そのため、報告的届出と同じ意味での「すでに生じた事実を一定期間内に届け出る期限」は置かれていません。
もっとも、創設的届出の中にも、届出によって一定の効果を選択できる期間が定められているものがあります。たとえば、離婚の際に称していた氏を称する届は、離婚の日から3か月以内に届け出る必要があります。
名・氏の変更は、家庭裁判所の許可だけでは完了しません
名・氏の変更手続きは、家庭裁判所の許可を得たうえで、市区町村に変更届を提出する流れで進みます。家庭裁判所の許可は重要な前提ですが、許可が出ただけで戸籍上の名や氏が直ちに変わるわけではありません。
実際に名・氏の変更の効力が生じるのは、市区町村に提出した変更届が受理された日です。ここでは、家庭裁判所の許可と戸籍届出の関係を整理します。
家庭裁判所の許可と市区町村への届出は役割が異なります
参考:戸籍法107条1項
第百七条 やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
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参考:戸籍法107条の2
第百七条の二 正当な事由によつて名を変更しようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
戸籍法107条1項の氏の変更、107条の2の名の変更は、いずれも「家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない」と定めています。
つまり、家庭裁判所の許可と市区町村への届出は、どちらか一方で足りるものではありません。家庭裁判所の許可は、氏や名を変更するための前提となる判断であり、戸籍上の記録を実際に変更するためには、その後に市区町村へ変更届を提出する必要があります。
氏の変更については、家庭裁判所の案内でも、許可の審判の確定後に、審判書謄本と確定証明書を添えて市区町村へ届け出る必要があると説明されています。名の変更についても、許可の審判書の謄本を添えて名の変更届を行います。
氏の変更届と名の変更届では、審判日の書き方が異なります
氏の変更届と名の変更届では、届書に記載する家庭裁判所の審判の日付の扱いが異なります。
- 氏の変更届:許可の審判が確定した日を記載します。
- 名の変更届:許可の審判の日付を記載します。
氏の変更届の記入例では、「許可の審判 令和○年○月○日確定」と記載する形式が示されています。一方、名の変更届の記入例では、「許可の審判 令和○年○月○日」と記載する形式になっています。
この違いは、届出時に提出する書類にも表れています。氏の変更届では、許可の審判書謄本に加えて確定証明書が必要とされるのに対し、名の変更届では、許可の審判書の謄本を添付します。
それでも、効力が生じるのは届出が受理された日です
氏の変更届には許可の審判の確定日を、名の変更届には許可の審判の日付を記載します。しかし、これらの日付は、変更届の前提となる家庭裁判所の手続きを示すものであって、名・氏の変更そのものの効力発生日ではありません。
氏の変更届も名の変更届も、家庭裁判所の許可を得た後、市区町村への届出が受理されることによって、法律上の変更の効力が生じます。したがって、
- 氏の変更では、許可の審判が確定した日ではなく、氏の変更届が受理された日
- 名の変更では、許可の審判の日ではなく、名の変更届が受理された日
が、それぞれ効力発生日となります。
このように、名・氏の変更届は、家庭裁判所の許可を前提としながらも、市区町村への届出によって変更の効力を生じさせる届出として整理できます。
複数の戸籍届を同時に提出する場合の一般原則
人生の節目において、複数の戸籍届を同じ日にまとめて行うケースがあります。同時提出自体は一定の条件のもとで行われますが、処理の順序や提出方法に関する事前の理解が必要です。
同時提出の実務例
実務上見られる組み合わせとして、未婚の親による「子の出生届と認知届」の同時提出や、「離婚届と離婚の際に称していた氏を称する届(戸籍法77条の2)」の同時提出が挙げられます。
複数の届出を一度に行うことにより、一連の身分変動や氏の扱いを同じ機会に整理できる場合があります。
報告的届出を前提として処理される場合
報告的届出と創設的届出を同時に提出する場合には、前提となる事実を戸籍に反映させたうえで、後続する創設的届出を処理する流れになることがあります。すでに生じている法律関係が戸籍上確認できなければ、後続する届出の前提を整理できないためです。
たとえば、裁判離婚の届出と、離婚の際に称していた氏を称する届を同時に提出する場合には、まず離婚の事実を戸籍に反映させ、そのうえで婚氏続称の届出を処理する流れになります。
夜間・休日受付と翌開庁日審査の注意点
時間外窓口(夜間・休日)でも戸籍届の受け付けは行われますが、実際の審査は翌開庁日以降です。時間外の受付担当者が、複雑な複数届出の順序や整合性をその場で詳細に確認することは困難です。
不備があれば後日確認や補正が必要になることもあるため、複雑な組み合わせの同時提出は、通常の開庁時間内に窓口で相談しながら進めるのが安全です。
名・氏の変更届を同時提出するときの注意点
名の変更届または氏の変更届を他の戸籍届と同時に提出する際は、変更前・変更後の氏名が書類間で混在することがあります。そのため、届出の組み合わせに応じて、処理の順序や記載内容を確認しておくことが重要です。
氏名の齟齬が生じる仕組み
たとえば「名の変更届」と「子の入籍届」を同時に提出する場合、名の変更を先に処理すると、入籍届に記載されている親(届出人)の名は「変更前の名」であるため、形式上は新戸籍の記載と食い違います。届出書を作成する時点ではまだ名が変わっていないため、この齟齬は避けられません。
もっとも、同時提出であれば、市区町村が一連の届出関係を確認したうえで処理できます。そのため、書類間に変更前後の氏名が混在すること自体で、直ちに届出ができなくなるわけではありません。
ただし、具体的な記載方法や処理順序は届出の組み合わせによって異なります。複数の届出を予定している場合は、事前に市区町村へ確認しておくのが安全です。
同時提出が検討される具体的な組み合わせ
改名・改姓の実務においては、次のような同時提出が問題になることがあります。
- 名の変更届 + 氏の変更届:それぞれ家庭裁判所の許可を得ていれば、同じ日にまとめて届け出ることが考えられます。
- 名の変更届 + 子の入籍届:名の変更後の戸籍状態を前提として、子の入籍届を続けて届け出る場面があります。処理の順序について、あらかじめ窓口に確認しておくのが安全です。
転籍届を同時に提出する場合は事前確認が重要です
名・氏の変更届と転籍届を同時に提出する場合は、処理の順序によって確認事項が増えることがあります。転籍により本籍地が移るため、届出先や処理の進め方について、あらかじめ市区町村に確認しておくのが安全です。
届出の内容や提出先の組み合わせによっては、同日にまとめて処理するよりも、提出日を分けた方が整理しやすい場合もあります。
市区町村や専門家への事前相談が有効なケース
次のような状況では、手続きを円滑に進めるために事前相談が有効です。
- 市区町村への相談が有効なケース:複数の戸籍届を同時に提出する予定があり、提出順序や届書への記載方法を事前に確認したい場合。
- 専門家への相談が有効なケース:転籍や他の身分変動が重なり、どの届出をどの順番で進めるべきか判断しにくい場合、またはすでに一部の届出が処理された後で今後の進め方を整理したい場合。
許可後に届出をしない場合の注意点
名・氏の変更届には、法律上の届出期限は定められていません。しかし、家庭裁判所の許可を得たまま長期間届出をしない場合には、実務上の確認が必要になることがあります。
長期間の放置による実務上の不利益
許可から長期間が経過している場合には、現在も届出をする意思があるのか、申立て時から事情が変わっていないかについて確認が必要となり、通常より処理に時間を要することがあります。
また、許可を得ただけで届出をしないまま本人が死亡した場合、届出による変更の効力は生じないままになります。名・氏の変更は、許可を得ただけでは完了せず、市区町村への届出によって初めて効力が生じるためです。
別の変更を再申立てする場合への影響
許可を得たものの届出をしないまま、別の名・氏への変更をあらためて家庭裁判所に申し立てることは、制度上あり得ます。
もっとも、前回の許可を得ながら届出をしなかった経緯は、再度の申立てにおいて説明を求められる可能性があります。新たな変更を求める理由とあわせて、それまでの経過を整理しておくことが重要です。
なお、名と氏の両方について変更を検討しており、それぞれの申立てを分けて行う場合には、両方の許可がそろった段階でまとめて届出を行う方法が考えられます。
まとめ
この記事では、名・氏の変更届の効力発生日と、複数の戸籍届を同時に提出する場合の注意点について解説しました。
名・氏の変更届は、家庭裁判所の許可を前提とする手続きですが、許可が出ただけで戸籍上の名や氏が変わるわけではありません。氏の変更では許可の審判の確定日、名の変更では許可の審判の日付を届書に記載しますが、変更の効力が生じるのは、市区町村に提出した変更届が受理された日です。
名・氏の変更届については、法律上の届出期限が定められていない点も重要です。ただし、許可後に長期間届出をしない場合には、届出時や再度の申立ての場面で確認が必要になることがあります。
また、複数の戸籍届を同時に提出することは一定の場合に行われますが、届出の順序や組み合わせによっては処理上の確認事項が増えることがあります。特に転籍届を絡める場合など、処理の流れが複雑になる場合には、事前に市区町村または専門家に相談しておくのが安全です。
よくある質問
名前の変更の効力が発生するのはいつですか?
市区町村に提出した名の変更届が受理された日です。家庭裁判所の許可の審判の日ではありません。名の変更は、許可を得た後に戸籍届を行い、その届出が受理されることで効力が生じます。
苗字(氏)の変更の効力が発生するのはいつですか?
市区町村に提出した氏の変更届が受理された日です。家庭裁判所の許可の審判が確定した日ではありません。氏の変更は、許可の審判の確定後に戸籍届を行い、その届出が受理されることで効力が生じます。
名の変更届と氏の変更届を同時に提出することはできますか?
それぞれ家庭裁判所の許可を得ていれば、同じ日にまとめて届け出ることが考えられます。届出の順序や具体的な記載方法について、事前に市区町村に確認しておくと安心です。
家庭裁判所の許可を得たら、いつまでに届出をすればいいですか?
戸籍法には、名・氏の変更届について法律上の届出期限は定められていません。ただし、長期間放置すると、届出時に確認が必要になったり、事情を説明する必要が生じたりすることがあります。許可を得た後は、速やかに届け出るのが適切です。
名前の変更届と転籍届を同時に提出することはできますか?
同時に提出すること自体が直ちに否定されるわけではありませんが、転籍届が絡むと処理順序や届出先の確認が必要になることがあります。事前に市区町村に相談したうえで進めるのが安全です。