離婚時に婚氏続称の届をして婚姻中の氏を名乗り続けた人が、婚姻前の旧姓に戻したい場合は、戸籍届だけで旧姓に戻すことはできないので、家庭裁判所の氏の変更許可を得る必要があります。まず氏の変更許可を家庭裁判所に申立て、許可を得た後、市区町村へ氏の変更を届出なければなりません。
この投稿では、旧姓に戻すための手続きをスムーズに進めるために、事前に確認すべきポイントと手続きのコツを詳しく解説します。
離婚後に旧姓に戻す手続の前にチェックするべきポイント
旧姓に戻すための手続きは、家庭裁判所を利用する手続きです。事前に必要な準備をせずに手続きを始めてしまうと、追加の証明書や資料、内容の訂正を求められ、結果として許可を得るまでに時間がかかることがあります。
そのため、事前にポイントを押さえて、準備を整えたうえで裁判所へ申立をすることで、スムーズに許可を得られます。まずは許可されない一般的な状況を確認し、旧姓に戻す手続きの際にチェックするべきポイントを解説します。
旧姓に戻す手続きの前に知っておくべき許可されない一般的な事情
氏名の変更の許可申立手では、不当な目的を持って氏を変更しようとしている場合は、許可されません。旧姓に戻す手続きの場合でも、これは適用されます。
不当な目的とは、一般的に社会的に非難されるような行為とされています。改名・改製の手続きでは、以下の例が挙げられています。
- 犯罪歴を隠すため
- 破産歴を隠すため
- 大きな負債があることを隠すため
- その他不当な目的
犯罪歴や破産歴は、典型的な事情です。過去に罪を犯したこと、破産をしたことを調べられないように氏名を変更しようとすることは、許可をしない理由になりえます。
大きな負債とは、いわゆる大きな借金ですが、借入に限られません。破産等の法的な債務整理を必要とした返済が困難なほどの支払い義務とも言えます。しかし、住宅ローンや車のローン等だけでしたら、場合によっては問題ありません。
その他不当な目的というのは、とても解釈が難しいです。例えば、途中の結婚離婚が偽装結婚と疑われるような場合や営業許可・免許の取り消しなどの行政罰や外国機関からの制裁等も含まれる可能性があります。
旧姓に戻す場合は、ここに挙げた事情があっても、絶対に許可されないわけではないので、不安に思われる方は、専門家に相談することをお勧めします。
離婚後10年以上経過してからの旧姓に戻す手続き
離婚後に長い時間が経過していても、旧姓に戻せます。
以前は、離婚をしてから長い時間が経過してからの旧姓に戻すための氏の変更については、管轄の家庭裁判所や担当する裁判官次第で許可・不許可が分かれていました。
しかし、平成3年と平成26年に、離婚後10年以上経過した後に旧姓に戻すための氏の変更許可申立が家庭裁判所に却下された後、高等裁判所で家庭裁判所の判断を覆して旧姓に戻すことが許可されて以降、離婚後に経過した期間は問題にならなくなりました。
平成3年の裁判は、婚氏続称を選択理由(離婚後の名義変更手続が煩わしいと考えて婚氏を続称した)を軽率だと批判していますが、それでも旧姓に戻すことを許可している点も重要です。
平成3年の大阪高等裁判所の判断(抜粋)
離婚時に離婚後にする手続きが煩わしいと考え婚氏続称を選択した人が、その後の続称した氏とは異なる実父母と11年以上同居してました。世間の目や郵便物の誤配送等、日常的に不便を感じていたので、旧姓に戻すために氏の変更を家庭裁判所へ申立てましたが、却下されました。そこで、高等裁判所へ抗告したところ、以下の理由で許可されたものです。
婚姻によって氏を変更した者が、離婚によって婚姻前の氏に復することは、離婚が行われたことを社会的にも明確にし、新たな身分関係の形成を公示しようとする制度の目的を支えるものであって、ただ、上記必要性を上回る婚氏続称の要求がある場合には、例外的にこれを認めることにしたものと見るのが相当である。
このような見地からは、離婚をして婚氏の続称を選択した者が、その後婚前の氏への変更を求める場合には、戸籍法107条所定の「やむを得ない事由」の存在については、これを一般の場合程厳格に解する必要はないというべきところ、抗告人が離婚後、婚氏を続称したために、前記認定のような日常生活上の不便・不自由を被っていることの認められる本件においては、抗告人の戸籍法107条1項に基づく、本件氏の変更の申立には、「やむを得ない事由」があるものと解するのが相当である。
平成26年の裁判では、離婚後一定の期間が経過して以降は、旧姓を通称氏として名乗っていることも高等裁判所は指摘していますが、現在は旧姓氏を名乗っていることは重要ではないと考えられます。
平成26年の大阪高等裁判所の判断(抜粋)
これは、離婚時に子供が小学生だったので婚氏続称した後、15年以上が経過し、子供が大学を卒業、独立したので、旧姓に戻すために家庭裁判所へ申立をしたが、許可されなかったので、高等裁判所へ抗告したところ、以下の理由で許可されたものです。
離婚後15年以上,婚姻中の氏である「○○」を称してきたのであるから,その氏は社会的に定着しているものと認められる。しかし,①記録によれば,抗告人が,離婚に際して離婚の際に称していた氏である「○○」の続称を選択したのは,当時長男が学生であったためであることが認められるところ,前提事実によれば,長男は,大学を卒業したこと,②抗告人は,抗告人の婚姻前の氏である「△△」姓の両親と同居し,その後,9年にわたり,両親とともに,△△△△という屋号で近所付き合いをしてきたこと,③抗告人には,妹が2人いるが,いずれも婚姻しており,両親と同居している抗告人が,両親を継ぐものと認識されていること,④長男は,抗告人が氏を「△△」に変更することの許可を求めることについて同意していることからすれば,本件申立てには,戸籍法107条1項の「やむを得ない事由」があるものと認めるのが相当である。
1.3.本人が子供の頃に両親の離婚で氏が変わっている人の旧姓
本人の氏が、婚姻前に親の都合で氏が変わっている場合の旧姓は、婚姻直前の氏のことを意味します。
両親の離婚後の氏に戻すことはできますが、両親の離婚前の氏には、旧姓に戻す手続きで直接変更することはできません。
と、氏が変わった場合、旧姓に戻すために氏の変更を申立てをしても、佐藤さんにすることはできず、許可を得ることができる氏は、高橋さんです。
両親の離婚後、親が再婚してさらに氏が変わっているような場合は、複雑です。
親の再婚後、再婚相手と養親縁組している場合
この場合も戻すことができる旧姓は、田中さんです。高橋さんにするためには養子縁組を解消する必要があります。しかし、本人の婚姻中に養子縁組を解消している場合は、高橋さんにすることができます。
親の再婚後、再婚相手と養親縁組せずに、親の戸籍に入っている場合
この場合も旧姓に戻すことができるのは、田中さんだけです。高橋さんにすることは不可能ではありませんが、普通の氏の変更と同様に「やむを得ない事由」を厳格に判断されます。
両親の離婚前の佐藤さんに戻したい場合
この場合は、手続き自体が別のものになります。難易度はもう一人の親佐藤さんが生存しているかどうかで大きく変わってきます。
親佐藤さんが生存している場合は、子の氏の変更(この入籍の手続き)をつかって、佐藤さんの戸籍に復帰することになります。(同じ戸籍に子供がいる場合でも可能です。)
親佐藤さんが亡くなっている場合は、普通の氏の変更の手続きになります。原則どおり「やむを得ない事由」を裁判所から求められます。積極的に許可されている裁判例というものは見当たりませんが、私個人としては、簡単に許可されても良いと思います。しかし、少なくとも「佐藤」を通称氏として名乗っていることは、必要になると思います。
本人の最初の結婚後に、親の氏が変わっている場合
1.3.と似ていますが、本人の最初の結婚後に、親の離婚再婚、片方の親の死亡後の復氏等で、親の氏が変わっていることもあります。
となっている場合、本人鈴木さんが戻せる旧姓は高橋さんですが、伊藤さんにすることも可能です。この場合も子の氏の変更手続きをすることになります。しかし、親の再婚相手である伊藤さんの家族が反対する場合は、伊藤さんにすることはできません。
結婚と離婚が複数ある場合の旧姓に戻す手続き
何度か離婚と結婚をしていて、途中で婚氏続称をしていても、最初の結婚前の旧姓に戻すことができます。
と、結婚と離婚をしている人が、最後の離婚時に離婚届で選べる氏は高橋さん又は婚氏続称をして田中さんのいずれかです。裁判所で、旧姓に戻す許可を得て、佐藤さんにもどることはできますが、鈴木さんにすることはできません。
これも以前は、管轄裁判所や担当裁判官によって、旧姓に戻すことが許可・不許可されるかが分かれていました。
しかし、平成15年の東京高等裁判所の裁判以降は、複数の結婚と離婚があって、途中で婚氏続称をしていても、問題なく結婚直前の旧姓に戻すことができるようになりました(上の例であれば「佐藤」)。
平成15年の東京高等裁判所の判断(抜粋)
これは、最初の離婚時に婚氏続称し、同一人とさらに二回結婚とした後、旧姓に戻す申立をしたケースです。家庭裁判所では、許可されませんでしたが、高等裁判所は、以下のとおり許可しました。
最初の離婚に際して婚氏〇〇を選択したため,2度目以降の離婚に際してもはや民法767条によっては最初の婚姻前の氏である生来の氏「△△」に復することができなくなったものである。したがって,本件は,離婚に際して婚氏を称することを届け出た者が婚姻前の氏と同じ呼称にしたい旨の申立てとは異なるが,生来の氏への変更を求めるものであるから,婚姻前の氏と同じ呼称に変更する場合に準じて,氏の変更の申立てが恣意的なものであるとか,その変更により社会的弊害を生じるなどの特段の事情のない限り,その氏の変更を許可するのが相当である。前記認定の事実によれば,抗告人が本件氏の変更許可を求める動機や事情を考慮すると,本件申立てが恣意的なものとはいえないし,抗告人の氏が「△△」に変更されることに特に社会的に弊害があるとは認められず,戸籍法107条1項所定のやむを得ない事由があるものと認めることができる。
最後の離婚の際に婚氏を続称しなかった例として、昭和61年の札幌家庭裁判所の裁判例があります。これは途中の離婚時に婚氏続称をしたために、最後の離婚の際に旧姓を選択できなかったという場合です。なお、離婚後の時間の経過に判断中で触れられていますが、離婚後の時間の経過は現在では問題になりません。
昭和61年の札幌家庭裁判所の判断(抜粋)
これは、最初の離婚時に婚氏続称し、その後別の人と再婚、離婚をした際に旧姓を名乗ることを選択して、市町村が誤って旧姓の戸籍を編製し、後日、市町村が戸籍訂正して最後の婚姻中の氏に訂正されたという特殊なケースです。そのために旧姓に戻す申立をし、家庭裁判所は、以下のとおり判断して許可しました。
婚姻が二度にわたり、いずれの婚姻においても改氏した配偶者についても、わが民法は最初の離婚に際し婚姻前の氏に復し、二度目の離婚に際しても婚姻前の氏に復することにより、二度目の離婚に際しても最初の婚姻前の氏に復することを原則としているものと解せられるから、かかる配偶者から、最初の離婚に際し婚氏を選択したため、二度目の離婚に際してはもはや民法767条によっては最初の婚姻前の氏に復することができないことから、戸籍法107条1項により最初の婚姻前の氏に復するための氏の変更許可の申立てがなされた場合にも、前同様に、上記条項の適用にあたり一般の氏の変更の場合と異なる緩やかな解釈をすることが許されるものと解するのが相当である。
すなわち、最初の離婚に際し選択した婚氏が、最初の離婚後の氏として社会的に定着したとは未だ認め難い期間内に二度目の婚姻が成立し、かつ、二度目の離婚後の氏も、社会的に定着したとは未だ認め難い期間内に最初の婚姻前の氏に復するための氏の変更が求められた場合であって、その変更が特に申立人の恣意によるとか、変更により社会的弊害が生じるとかの特段の事情がない限り、かかる氏の変更は許可して差支えないものと解される。
日本国外に居住している場合
日本国外に住んでいても、旧姓に戻すことの許可・不許可について影響することはありません。
日本国外に居住している場合は、管轄する裁判所の判定が少し複雑になるので、誤って管轄外の裁判所に旧姓に戻すために申立てをしてしまい、そのために余計な時間がかかってしまうこともあるので、事前にチェックしなければならないポイントです。
- 日本国内に住民票が残っている方
日本国内に住民票が残っている場合は、その住民票のある市区町村を管轄する裁判所に申立てをすることになります。
- 日本国内から海外へ転出の届をしている方
この場合は、日本国内で最後の住民票があった市区町村を管轄する裁判所に申立てをすることになります。
また、最後の住所を証明するための資料も申立ての時点で必要になりますが、最後の住民票の除票では証明したことにならず、日本国内の最後の住所が分かるものから、現在までの戸籍の附票を集めなければなりません。
- 海外で生まれて一度も日本に住んだことがない方
この場合は、東京家庭裁判所が管轄裁判所になります。なお日本国内に一度も住所がないことを証明するために、生まれた時から現在までの戸籍の附票を揃える必要があります。
管轄の裁判所 | 揃えなければならない証明書 | |
---|---|---|
国内に住民票がある | 住民票のある市区町村を管轄する裁判所 | 不要 |
国外に転出している | 日本国内の最後の住民票があった市区町村を管轄する裁判所 | 日本国内の最後の住所が分かる戸籍の附票から現在までの戸籍の附票 |
一度も日本にすんだことがない | 東京家庭裁判所 | 生まれた時から現在までの戸籍の附票 |
過去の附票が保管期間満了で廃棄された場合は、裁判所と要相談 |
同じ戸籍に15歳以上の子供がいるときの旧姓に戻す手続きへの影響
氏の変更申立てでは、家庭裁判所は同じ戸籍にいる15歳以上人の意見を聞くことになっています。しかし、事前に同じ戸籍にいる人が、旧姓に戻すことに賛成しているのであれば、申立てと同時にその人の氏の変更についての同意書を裁判所に提出しておけば、手続きにかかる時間を大幅に節約できます。
旧姓に戻すための氏の変更許可申立の手続き
旧姓に戻すためのポイントは、上記のとおりです。それをふまえて、旧姓への変更も、他の氏の変更と同様に、裁判所の許可を得て氏の変更届をすることで、はじめて戸籍の氏が変わります。
ここでは、裁判所の氏の変更許可申立の手続きにポイントを絞って解説します。
旧姓に戻すための家庭裁判所の手続きにかかる費用
裁判所の申立手数料は、800円分の収入印紙で納めることになっています。800円の収入印紙は販売されていないので、400円の収入印紙2枚を用意することが多いです。
これとあわせて、家庭裁判所との連絡用の郵便切手を納めることになります。郵便切手の総額と内訳は管轄する裁判所によって違いがあります。ですので、事前に裁判所のホームページ等で確認することをお勧めします。
一般的には総額で1,200円程度から2,000円程度が多いと思いますが、500円から600円の郵便切手を最初に納め、後日1,000円程度を追加する管轄裁判所もあります。
なお、2024年10月から郵便料金が値上がりするので、100円から300円程度、総額が増えると思われます。
管轄 | 郵便切手の総額 | 切手の内訳 |
---|---|---|
東京家庭裁判所 (東京家庭裁判所立川支部も同じ) |
1,670円 |
|
横浜家庭裁判所 | 1,620円 |
|
さいたま家庭裁判所 | 1,530円 |
|
千葉家庭裁判所 | 1,985円 |
|
※支部によって、切手の総額・内訳が違うことがあります。 |
旧姓に戻すための家庭裁判所の手続きにかかる期間
氏の変更許可申立の裁判所のための期間は、裁判所に申立てをしてから、早い場合で1か月程度、通常1か月半から2か月程度かかります。
これで、家庭裁判所の手続きが終わりになります。しかし、管轄の裁判所によっては、照会書で質疑応答するのではなく、裁判所に出頭して面談がある場合があり、この場合は余計に時間がかかることもあります。
また、裁判所が問題ないと考える場合は、2.の段階で許可の審判書が届くこともあります。
旧姓へ戻すために用意すべき戸籍謄本等の書類
ここでは、旧姓に戻すために申立てをするにあたって事前に用意する証明書や書類を解説していきます。
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)は、必ず用意しなければなりません。原則、婚姻をする直前の親の戸籍から、現在までの戸籍を集めることになります。
令和6年3月、自分と自分の父母、子供の戸籍は、本籍地ではない市区町村でもすべて取得できる、戸籍の広域交付制度が始まりました。市区町村の窓口では、戸籍の広域交付の請求をしたいことを伝えて、(最初の)結婚前の戸籍から現在までの全ての戸籍を請求することで、手続きに必要な戸籍が集まります。
しかし、窓口の市区町村によっては全ての戸籍を受け取るまでに、とても時間かかることもあるので、2週間以上かかるようでしたら、現在の戸籍から一つずつ順番にそろえていった方が早いです。
稀に管轄の裁判所によって、現在の戸籍から戻るべき旧姓がはっきりする場合は、現在の戸籍だけで手続きを進められますが、親の戸籍から、現在までの戸籍を集めてしまっても良いと思います。
同じ戸籍に15歳以上の子供がいる場合は、氏を変更することについての同意書
同じ戸籍に15歳以上の子供がいる場合は、旧姓に氏が変わることについてのお子様の同意書も用意すべきです。同意書は必須の書類ではありませんが、申立後に裁判所からお子様へ連絡があり、その分、余計に時間がかかります。
住所を証明する必要があるときは、戸籍の附票
日本国外に居住している場合は、日本国内の最後の住所を証明するために戸籍の附票を用意しなければなりません。また、同じ戸籍の15歳以上の子供が、別の住所に住んでいる場合は、現在の戸籍の附票を取得しておくことをお勧めします。
氏の変更許可申立書の作成
申立書は、裁判所の窓口に備え付けられているほか、裁判所のホームページからもダウンロードできます。
申立書の1ページ目には、本籍や住所氏名等を記入し、署名押印をします。
2ページ目には、変更したい旧姓や、旧姓に戻そうと考えた経緯、15歳以上のお子様がいる場合はお子様の住所氏名と年齢を記入します。
申立書に記入する氏名や地名は、戸籍や住民票に記録されているとおりの文字で記入をするべきです。また、許可がされた後、氏の変更届を作成するときに、戸籍等の証明書が手元にあるととても便利なので、裁判所に提出する申立書・戸籍等の証明書はすべてコピーをしておくことをお勧めします。
旧姓に戻す手続きの場合は、氏の変更の許可を得るために必要な「やむを得ない事由」は、あまり重要ではありません。ですので、今までの経緯をそのまま書いても問題ありません。
記入が終わったら、申立書と集めた証明書等、申立手数料を受付の窓口に提出します。裁判所の受付は申立書等を郵送しても問題ありません。
旧姓に戻すための家庭裁判所の面談や審査
裁判所が申立書を受け取ると、申立書に記載された本籍や住所氏名等に誤りがないか、戸籍等の証明書に不足がないか、形式的な審査をして、問題がなければ受付をします。簡単な誤記等があれば、この場で訂正するように求められます。
受付後は担当部署に書類が移り、内容の審査が始まります。ここでは、旧姓に戻すことを許可しても良いのか、許可してはならないことはないのかを審査されます。
ここまでで、書類上はまったく問題ないと判断されると、すぐに許可をする裁判所がありますが、一般的には形式的に、本人に照会、面談が設けられます。
照会や面談では、形式的な質問や、書類上問題があると考えられた点を、郵便や口頭で質問されます。その後、裁判官が問題ないと判断したら、許可の審判書を、郵便又は手渡しで受け取れます。かりに許可されない場合、不許可の審判書が郵送されることが多いです。
家庭裁判所に旧姓に戻すことを許可された後にすべきこと
旧姓に戻すことが許可され、氏の変更届を市区町村に届け出る時に、旧姓に戻すことの許可が確定したことの証明書(確定証明書)を添付しなければならないので、確定証明書の発行を申請する必要があります。
確定証明書の申請書は、ほとんどの裁判所で許可の審判書と一緒に渡されます。申請書には、住所氏名等を記入して、署名押印する必要があり、また確定証明書の発行手数料の150円分の収入印紙も必要になります。この証明の申請は、旧姓に戻すことの許可が確定する前にでもできるので、許可の審判書を受け取ったらすぐに申請した方が良いです。
確定後数日で、確定証明書が普通郵便で送られてきます。なお、最近は郵便事情があまり良くないので、速達や書留で送ってほしいと裁判所書記官にお願いするのもお勧めです。(追加の切手を求められることもあります。)
市区町村への旧姓に戻すための氏の変更届
裁判所から確定証明書を受け取ったら、市区町村へ氏の変更を届け出ます。氏の変更は、変更届出書を住民票又は本籍のある市区町村に提出しなければ、戸籍上の氏は旧姓にもどらないので、必ず届け出る必要があります。
届出をしなければならない期間はありませんが、あまりにも時間が経過している場合は、許可の審判書や確定証明書の再発行を求められかもしれないので、確定証明書を受け取ったら、すぐにでも届け出るべきです。
氏の変更届出書の用意
氏の変更届出書の用紙は、市区町村の窓口に備え置かれていますが、市区町村のホームページでダウンロードできることも多いので、事前に準備をしても良いと思います。
いずれの事項も、申立のために用意した戸籍等の証明書や審判書等に記載されているものですので、それを確認しながら記入してください。これらの事項を記入後、届出書に署名をしたら、市区町村の戸籍の窓口に届出ます。戸籍の届出の窓口は、戸籍謄本等の証明書の窓口とは別ですので、役所の受付で「戸籍届をしに来た」とはっきり言った方が良いです。
ちなみに、同じ戸籍にいるお子様の父母の欄の父母の氏名は、特別なことをしないでも旧姓に変更されます。
もし、お子様が婚姻等で別の戸籍にいる場合は、「本籍、○○県××市××11111番地、筆頭者△△の子△△の父母欄の氏名も変更してください。」と、氏の変更届出書の用紙のその他欄に記入しておくと間違いがありません(記入しなくても、問題はありません)。
なお、戸籍届への押印義務は廃止されていますが、押印しても問題ありません。
提出する役所の選び方
氏の変更届をした後の流れは、変更届をどの市区町村にしたかで、少し違いがあります。
住民票のある市区町村に届出をした場合
この場合は、住民票の氏は、届出後すぐに変更され、国民健康保険やマイナンバーカードの手続きもあわせてすることができます。
戸籍は住民票のある市区町村から本籍地の市区町村へ送られ、1週間から2週間程度で新しくなった戸籍を取得できるようになります。
本籍地の市区町村へ届出をした場合
この場合は、本籍地ではすぐに戸籍の変更作業がされますが、手続き的には1週間から2週間程度かかります。その後、新しい戸籍を取得することができるようになります。
住民票は、戸籍のある市区町村から住民票のある市区町村へ通知がされます。通知があった後、すぐに住民票の変更はされますが、国民健康保険やマイナンバーカード等の手続きのために、別途住民票のある市区町村の窓口に行く必要があります。
住民票のある市区町村に氏の変更届出をしたときの注意点
住民票のある市区町村に氏の変更届出をしたときは、本籍地の市区町村に氏の変更届を住民票のある市区町村へ、ご本人から連絡をした方が良いです。
以前は住民票のある市区町村では、住民票の処理をした後に郵便で氏の変更届出書と添付書類を、本籍のある市区町村へ郵送していました。
戸籍の広域交付制度の開始とあわせて、役所の中の処理も新しい制度が始まり、ネットワーク経由で、氏の変更届が本籍地の市区町村へ送るようになりました。ところが、市区町村の中で混乱があるようで、稀に氏の変更届が本籍地の市区町村に届いていないことがあるようです。
ですので、氏の変更届をした後は、本籍地の市区町村へ連絡をして、届いているかを確認することをお勧めします。
私のおすすめ
私のおすすめは、住民票のある市区町村に届け出る方法です。その場でマイナンバーカード等の手続きができるからです(とはいえ1時間以上は時間がかります)。また、氏の変更が分かる住民票があれば、運転免許証の書き換えも可能で、運転免許証以外にも住民票で手続きできるものがあります。
変更後の住民票や戸籍を取得した後は、銀行や携帯電話、クレジットカード、保険契約、水道光熱費などの名義を随時書き換えていきます。これらはすぐに書き換えなくても問題があるわけではないですが、時間がたってから手続きをする場合、とても手間がかかることがあります。特に銀行や携帯電話は本人確認が特に厳しいものですので、早めに手続きされることをお勧めします。
戸籍が旧姓に戻った後にチェックするポイント
住民票や戸籍が新しくなった後は、記録された旧姓の文字が正しいこと、氏の変更届の届出日が正しいことの2点を確認してください。
特に旧姓の文字に誤りがある場合は、トラブルの原因になりますので、その場で訂正を求めることで、迅速に対応してもらえます。戸籍届から時間が経ってしまうと、訂正されるまでに半年以上もかかることがあります。また、お子様たちの父母欄の氏名も正しく変更されているかも確認した方が良いです。
住民票、戸籍が新しくなった後の手続き
住民票、戸籍が新しくなった後は、身分証明書や銀行、携帯電話の名義を変更していきます。
運転免許証は住民票やマイナンバーカード等で、氏名の変更ができます。パスポートは戸籍が必要です。その他に身分証明書になる証明書や国家資格の登録等は戸籍が必要な場合が多いです。
銀行や携帯電話、クレジットカード等、契約時に厳格な本人確認が必要なものは早めに氏名の変更をしておくべきです。なぜならば、時間が経ってしまうとその後の住所変更などで、用意しなければならない資料が膨大になり、負担が大きくなってしまうからです。
本人確認があまり厳格ではないもの(例えば美容室やジム等の会員等)は、気づいた時に変更していっても問題ないです(クレジットカード払い、銀行引落の場合は気を付けてください)。
今後、マイナポータルで利用可能な行政手続等の範囲が拡大するとともに、旧姓にもどった後の氏名変更手続きは簡単になっていくと思われますが、重要なものについてはすぐにでも対応するべきです。
まとめ
旧姓に戻す手続きは、比較的新しい氏の変更手続きの問題でした。昭和50年以前は、婚氏続称の制度自体がなく、離婚をすると必ず婚姻前の氏にもどっていたので、この問題が起こらなかったからです。
昭和51年以降、婚氏続称の制度が始まってから、平成後期までの間に多くの方が旧姓に戻すために氏の変更許可を申立て、現在は、ほぼ許可されるようになっています。これは、婚姻の効果として氏が変わっても、離婚で氏が変わったことの効力がなくなり、元の氏にもどることが大原則だからだと考えられます。
ですので、旧姓に戻すことを希望していて、これから手続きを始めようとする方が、スムーズかつ最短期間で旧姓に戻すことの許可を得るには、事前にしっかりと準備をすることが重要です。