母の再婚相手と養子縁組をした後、母が再婚相手と離婚して婚姻中の氏をそのまま名乗り、さらに本人も養父と離縁した場合、戸籍や氏の関係は複雑になります。
今回ご紹介するのは、養子離縁後に婚氏続称をした母の戸籍へ入り、母と同じ養父由来の氏を名乗っていた方が、すでに亡くなっている実父の氏へ戻したいと相談された事例です。
この方は、ご相談後にご本人で家庭裁判所へ氏の変更許可を申し立て、その後、実父の氏への変更が許可されたとの情報提供をしてくださいました。本記事では、この事例をもとに、どの手続きを検討することになるのかを戸籍上の経過から整理します。
この記事の結論
- 本人は養父との離縁後、婚氏続称をした母の戸籍へ入ったため、母と同じ養父に由来する氏を名乗っていました。
- 実父がすでに亡くなっており、成年後1年以上が経過していたため、民法791条による方法では実父の氏へ戻ることができませんでした。
- そこで、ご本人が戸籍法107条1項による氏の変更許可を申し立て、亡くなった実父の氏への変更が許可されました。
この事例の整理
今回ご相談いただいた方は、父母の離婚後に母の戸籍へ入り、その後、母の再婚相手と養子縁組をしていました。さらに、母と養父の離婚、本人と養父との養子離縁を経て、相談時には母と同じ養父に由来する氏を名乗っていました。
ここでは、実父の氏を「A氏」、母が実父との離婚後に戻った氏を「B氏」、養父の氏を「C氏」として、戸籍と氏の変遷を整理します。
| 時点 | 母 | 本人 |
|---|---|---|
| 父母の婚姻中 | A氏 | A氏 |
| 父母の離婚後 | B氏 | 母の戸籍へ入りB氏 |
| 母の再婚・養子縁組後 | C氏 | 養父と養子縁組してC氏 |
| 母と養父の離婚後 | 婚氏続称によりC氏 | C氏 |
| 本人と養父の離縁後 | 婚氏続称によりC氏 | 母の戸籍へ入りC氏 |
| 相談時 | C氏のまま変更を希望しない | C氏から亡くなった実父のA氏への変更を希望 |
このように、本人は養父との養親子関係を解消していますが、養父との離婚後もC氏を名乗っている母の戸籍へ入ったため、相談時にも養父に由来するC氏を名乗っていました。
一方、実父はすでに亡くなっており、本人は成年後1年以上が経過していました。この状況から、亡くなった実父のA氏へ変更するために利用できる手続きを検討することになります。
養子離縁後に現在の苗字になった経緯
養子離縁をした後にどの氏を名乗ることになるかは、養子縁組をする前の戸籍や氏の経過によって異なります。養父との養親子関係を解消したからといって、必ず実父の氏へ戻るわけではありません。
たとえば、実父の戸籍からそのまま養父の戸籍へ入って養子縁組をした場合と、父母の離婚後にいったん母の戸籍へ入り、その後に母の再婚相手と養子縁組をした場合とでは、離縁後の戸籍や氏の扱いが異なります。
今回の事例では、本人は父母の離婚後に母の戸籍へ入り、その後、母の再婚相手と養子縁組をしてC氏を名乗るようになりました。その後、母は養父と離婚しましたが、婚氏続称をしてC氏をそのまま名乗っていました。
さらに本人が養父と離縁した後、婚氏続称をしている母の戸籍へ入ったため、本人も母と同じC氏を名乗ることになりました。つまり、相談時には母と本人の双方がC氏を名乗っていましたが、本人については、C氏の由来となった養父との養親子関係はすでに解消されていたことになります。
亡くなった実父の苗字へ戻るために使える手続きを検討した
本人が希望していたのは、現在のC氏から、亡くなった実父のA氏への変更です。そのため、まず、母の氏の変更や子の氏の変更によって目的を実現できないかを検討する必要があります。
この事例では、母自身は現在のC氏を変更することを希望していませんでした。また、仮に母の氏を変更するとしても、それによって本人が希望する亡くなった実父のA氏へ変更できるわけではありません。そのため、母の氏を変更し、本人がそれに合わせる方法では解決できません。
次に、民法791条による子の氏の変更を検討します。しかし、実父はすでに亡くなっていたため、家庭裁判所の許可を得て実父の氏を称し、その戸籍へ入る方法を利用することはできません。
実父が亡くなっている場合の氏の変更
父母の離婚後に母の氏を名乗っている子が、亡くなった実父の氏へ変更する場合の基本的な考え方については、父母の離婚で母の苗字になった後、亡くなった実父の苗字へ戻すにはで詳しく解説しています。
また、子どもの頃に父母の離婚によって氏が変わった場合には、成年に達した後1年以内であれば、民法791条4項によって従前の氏へ戻る方法があります。しかし、今回の本人は成年後すでに1年以上が経過していたため、この方法も利用できませんでした。
そこで、亡くなった実父のA氏へ変更するためには、戸籍法107条1項に基づき、家庭裁判所へ氏の変更許可を申し立てる方法を検討することになります。
本人が亡くなった実父の苗字への氏の変更許可を申し立てた
前述のとおり、この事例では民法791条による方法を利用することができなかったため、戸籍法107条1項による氏の変更許可を検討することになりました。
ご相談後、ご本人が家庭裁判所へ氏の変更許可を申し立て、その後、亡くなった実父の氏への変更が許可されたとの情報提供をいただきました。
なお、この申立ては当事務所が受任して行ったものではなく、ご本人が申立てをしています。そのため、家庭裁判所へ実際にどのような事情を説明し、どの事情が許可の判断で重視されたのかまでは確認できません。
養子離縁後に亡くなった実父の苗字へ戻す場合に考えられる事情
前述のとおり、この事例では、ご本人が家庭裁判所へどのような事情を説明し、どの事情が許可の判断で重視されたのかは確認できません。
もっとも、このようなケースでは、本人が現在の氏を名乗ることになった経緯と、養父との養親子関係がすでに解消されていることが重要な事情になると考えられます。
今回の本人は、母の再婚によって養父と養子縁組をしたことでC氏を名乗るようになりました。その後、養父との養親子関係は離縁によって終了していますが、婚氏続称をした母の戸籍へ入ったため、相談時にも養父に由来するC氏を名乗っていました。
つまり、現在の氏の由来となった養父との身分関係はすでに終了している一方で、その養父に由来する氏を本人が名乗っている状態です。このような戸籍上の経過は、本人が現在の氏を名乗り続ける必要性を否定する事情の一つになると考えられます。
実父の氏を日常生活で通称として使用している実績がなければ変更できないわけではないと考えられます。不当な目的がないことは当然として、現在の氏ではなく実父の氏へ変更したい理由について、養子離縁後の状況に即した合理的な説明は必要です。
また、養子離縁から氏の変更許可申立てまでの期間も、一つの事情になり得ます。養子離縁後の比較的短い期間に申し立てる場合には、養親子関係の終了と氏の変更との関係を説明しやすいと考えられます。
一方、養子離縁後も何十年にわたって現在の氏を使用している場合には、なぜその時点で実父の氏へ変更する必要があるのかについて、より具体的な説明が求められると考えられます。
まとめ
このケースでは、本人は父母の離婚後に母の戸籍へ入り、その後、母の再婚相手との養子縁組、母と養父の離婚、養父との養子離縁を経て、婚氏続称をした母と同じ養父に由来する氏を名乗っていました。
本人は亡くなった実父の氏への変更を希望していましたが、実父がすでに亡くなっていたため、民法791条による子の氏の変更を利用できず、また、成年後1年以上が経過していたため、同条4項によって従前の氏へ戻る方法も利用できませんでした。そのため、戸籍法107条1項による氏の変更許可を選択することになります。
この場合には、養親子関係が解消されていること、離縁後の経過などを踏まえて、利用できる手続と氏を変更する理由を慎重に検討することが重要です。