離婚の際に旧姓へ戻らず、婚姻中の氏を名乗り続ける「婚氏続称」を選んだ方でも、後から旧姓へ戻したいと考えることがあります。
離婚から10年、20年と長い時間が経っていると、「今さら旧姓に戻せるのだろうか」と不安に感じるかもしれません。しかし、離婚後長期間が経過していることだけで、旧姓への変更が否定されるわけではありません。
もっとも、婚氏続称後に旧姓へ戻すには、家庭裁判所で氏の変更許可を受ける必要があります。申立てで重視されるのは、今になって旧姓へ戻したい事情です。
この記事では、離婚後10年、20年と長期間が経過してから旧姓へ戻したい方に向けて、長期間経過後でも旧姓への変更が認められた裁判例や、申立てで整理しておきたい事情を司法書士が解説します。
離婚後10年・20年経っていても旧姓に戻せるのか
離婚の際に婚氏続称を選んだ後、10年、20年と時間が経ってから旧姓へ戻したいと考える方もいます。
この場合、「離婚から長い時間が経っているから、もう旧姓には戻せないのではないか」と考える方も少なくありません。ここでは、経過期間と旧姓への変更の関係を整理します。
長期間経過しているだけで旧姓への変更が否定されるわけではない
婚氏続称後に旧姓へ戻すには、家庭裁判所で氏の変更許可を受ける必要があります。そのため、離婚届を出したときのように、届出だけで当然に旧姓へ戻るわけではありません。
もっとも、離婚から長期間が経過していることと、家庭裁判所の手続が必要になることとは別の問題です。離婚後10年、20年と時間が経っていても、その期間の長さだけで旧姓への変更が否定されるわけではありません。
旧姓へ戻すことが認められるかどうかは、離婚からの経過期間だけで決まるものではありません。旧姓へ戻すことが現在の生活状況から見て合理的といえるかも問題になります。この判断基準については、婚氏続称後に旧姓へ戻すには|やむを得ない事由と家庭裁判所の判断基準で確認できます。
今さらやっぱり旧姓に戻したいと考えることは不自然ではない
その後、子どもが成長したり、仕事に区切りがついたり、親との関係や今後の生活を考える時期になったりしたことで、改めて旧姓へ戻したいと考えることがあります。
その後、生活状況が変わったり、子どもが成長したり、仕事や家庭の事情に区切りがついたりしたことで、改めて旧姓へ戻したいと考えることがあります。
離婚から長い時間が経ってから、「今さらやっぱり旧姓に戻したい」と思うこと自体は不自然ではありません。大切なのは、時間が経っていることを理由に最初から諦めるのではなく、今になって旧姓へ戻したい事情を具体的に整理することです。
長期間経過後でも旧姓への変更が認められた裁判例
離婚から長期間が経過してから旧姓へ戻したい場合に参考になる裁判例として、離婚後15年以上婚姻中の氏を称していた人について、婚姻前の氏への変更を認めた東京高裁平成26年10月2日決定があります。
離婚後長期間が経過している場合に、「長年使ってきた氏が社会的に定着していること」をどのように考えるかが問題になった事例です。
離婚後15年以上経過してから旧姓への変更が認められた事例
この事例では、申立人は離婚に際して婚氏続称の届出をし、離婚後15年以上、婚姻中の氏を称してきました。家庭裁判所は、氏の変更を認めるべき「やむを得ない事由」があるとは認められないとして、氏の変更許可の申立てを却下しました。
しかし、抗告審である東京高裁は、婚姻中の氏が長年の使用によって社会的に定着していることを踏まえたうえでも、婚氏続称を必要とした事情がその後なくなっていたことや、離婚後の生活の実情などを考慮して、原審判を取り消し、婚姻前の氏への変更を許可しました。
参考:東京高等裁判所平成26年(ラ)第1866号決定(判例タイムズ1419号177頁)
抗告人は、離婚後15年以上、婚姻中の氏を称してきており、その氏は社会的に定着していた。しかし、婚氏続称を選んだのは学齢期の子どものためであり、その子どもは既に大学を卒業していたこと、抗告人は離婚後、婚姻前の氏を用いる両親と同居し、その氏の屋号で長年近所付き合いをしてきたこと、他の姉妹はいずれも婚姻して独立しており、抗告人が両親の家を継ぐ立場にあると認識されていたこと、子ども自身も氏の変更に同意していたことなどから、氏の変更を許可すべき「やむを得ない事由」があると判断された。
この裁判例からわかること
この裁判例では、婚姻中の氏を15年以上使用してきたことで、その氏が社会的に定着していると評価されました。それでも、東京高裁は、婚氏続称を必要とした事情がその後なくなっていたことなどを踏まえて、婚姻前の氏への変更を認めています。
このことから、離婚後の経過期間が長いことや、その氏が社会的に定着していることだけで、旧姓への変更が直ちに否定されるわけではないと考えられます。
もちろん、長期間が経っていても必ず許可されるという意味ではありません。申立てでは、今になって旧姓へ戻したい事情を具体的に説明する必要があります。
旧姓へ戻したい理由の考え方や、家庭裁判所の判断基準については、別記事「婚氏続称後に旧姓へ戻すには|やむを得ない事由と家庭裁判所の判断基準」で詳しく解説しています。
旧姓へ戻す申立てで整理しておきたいこと
離婚から長期間が経過してから旧姓へ戻したい場合、申立てでは、単に「旧姓に戻したい」と説明するだけではなく、今になって旧姓へ戻したい事情を整理しておくことが大切です。
また、子どもがいる場合には、自分が旧姓へ戻ることで子どもの氏にどのような影響があるのかも確認しておく必要があります。
やっぱり今になって旧姓へ戻したい理由
婚氏続称後に旧姓へ戻す申立てでは、離婚時ではなく、今になって旧姓へ戻したい理由を説明することになります。
離婚直後は、子どもの生活、学校、仕事、周囲との関係などを考えて、婚姻中の氏を使い続けることがあります。その後、時間が経ち、生活状況が変わったことで、改めて旧姓へ戻したいと考えることもあります。
たとえば、子どもの成人、就職、結婚、独立などをきっかけに、自分の氏を見直したいと考える方もいます。また、家庭裁判所に対して旧姓へ戻したい理由をどのように説明するかは、申立てを検討するうえで重要になります。
子どもの氏が変わるかは戸籍の状態によって異なる
旧姓へ戻すことを考えるときに、子どもの氏も変わるのかを心配される方もいます。子どもの氏に影響があるかどうかは、本人と子どもが同じ戸籍にいるか、別の戸籍にいるかによって異なります。
本人と子どもが同じ戸籍にいる場合、本人が氏の変更許可を得て旧姓へ戻ると、同じ戸籍にいる子どもの氏も筆頭者と法律上当然に同じ氏になります。実務上は、本人の氏の変更許可の申立てに際して、同じ戸籍にいる15歳以上の者について同意書の提出や意思確認を求められることがほとんどです。そのため、申立て前に同意書を準備しておくとよいでしょう。
一方、本人と子どもが別の戸籍にいる場合、本人が旧姓へ戻っても、子どもの氏が当然に変わるわけではありません。子どもの氏を本人の旧姓に合わせたい場合は、本人の旧姓復帰とは別に、子の氏の変更許可を申し立てる必要があります。この場合、子どもが15歳以上であれば、子ども自身が申立人として手続を行います。
そのため、旧姓へ戻す申立てを検討する段階で、現在の戸籍に誰が入っているのか、子どもが同じ戸籍にいるのかを確認しておくことが大切です。
旧姓へ戻す前に確認しておきたいこと
離婚後長期間が経過してから旧姓へ戻したい場合、現在の事情だけでなく、戸籍上どの氏へ戻れるのか、旧姓に戻したい理由をどのように説明するのかも確認しておく必要があります。
どの旧姓に戻れるかを確認する
結婚と離婚が一度だけであれば、婚姻前の氏がどの氏であるかは比較的分かりやすいでしょう。
複数回の結婚・離婚をしている場合や、養子縁組・離縁がある場合には、「一つ前の旧姓」に戻るのか、「さらに前の旧姓」に戻れるのかといった点が問題になります。しかし、旧姓へ戻したいと考える場合では、原則として、最初の婚姻前の氏にのみ変更することができます。
なお、本人の最初の婚姻後に両親の氏が変わっている場合で、本人が変わった後の両親の氏を称したいときは、旧姓に戻る手続ではなく、民法791条による子の氏の変更の手続を検討することになります。
旧姓に戻したい理由をどのように説明するか
婚氏続称後に旧姓へ戻すには、家庭裁判所で氏の変更許可を受ける必要があります。そのため、申立てでは、今になって旧姓へ戻したい理由を、家庭裁判所に対して具体的に説明することになります。
家庭裁判所がどのような事情を重視して判断するのかについては、別記事で詳しく解説しています。
よくある質問
離婚後10年・20年経っていても旧姓に戻せますか?
離婚後10年・20年と長期間が経っていても、そのことだけで旧姓への変更が否定されるわけではありません。
婚氏続称後に旧姓へ戻すには家庭裁判所の許可が必要ですか?
必要です。離婚の際に婚氏続称をした後で旧姓へ戻す場合、離婚時に旧姓へ戻る場合のように、届出だけで旧姓へ戻すことはできません。
この場合は、戸籍法107条1項に基づき、家庭裁判所に氏の変更許可を申し立てる必要があります。家庭裁判所の許可を得た後、市区町村へ氏の変更届を提出します。
旧姓へ戻ると子どもの氏も変わりますか?
子どもの氏が変わるかどうかは、本人と子どもが同じ戸籍にいるか、別の戸籍にいるかによって異なります。
本人と子どもが同じ戸籍にいる場合、本人が氏の変更許可を得て旧姓へ戻ると、同じ戸籍にいる子どもも同じ氏になります。一方、本人と子どもが別の戸籍にいる場合、本人が旧姓へ戻っても、子どもの氏が当然に変わるわけではありません。
まとめ
離婚の際に婚氏続称を選び、その後10年、20年と時間が経ってから旧姓へ戻したいと考える方は少なくありません。離婚後長期間が経過していることだけで、旧姓への変更が否定されるわけではありません。
もっとも、婚氏続称後に旧姓へ戻すには、家庭裁判所で氏の変更許可を受ける必要があります。申立てでは、長期間経過した後に旧姓へ戻したいと考えた理由を具体的に説明する必要があります。あわせて、子どもの氏への影響、どの旧姓に戻れるのかについても、あらかじめ確認しておくと良いでしょう。
「今さらやっぱり旧姓に戻したい」と考えること自体は不自然ではありません。時間が経っていることを理由に諦める前に、まずは事情を整理してみることをおすすめします。