父母の離婚で母の苗字になった後、亡くなった実父の苗字へ戻すには

父母の離婚後に母の氏となり、亡くなった実父の氏へ戻る流れを表したイメージ

子供の頃に父母が離婚し、母の戸籍に入って母の苗字になった方から、「亡くなった実父の苗字へ戻したい」というご相談がありました。

実父が生きている場合は、子の氏の変更許可の手続をすることで比較的容易に父の氏になることができます。ところが、実父が亡くなっていると、父の戸籍へ入る方法によって実父の苗字へ戻ることはできません。

しかし、実父が亡くなっているからといって、実父の苗字へ戻す方法がなくなるわけではありません。家庭裁判所に氏の変更許可を申し立てることで、亡くなった実父の苗字への変更を検討することができます。

この記事では、戸籍上の経過を順番に確認しながら、なぜ父の戸籍へ入る手続きが使えないのか、亡くなった実父の苗字へ戻すためにどのような手続きを検討することになるのかを、実際の事例をもとに解説します。

この記事の結論

  • 実父が亡くなっている場合は、子の氏の変更許可によって父の戸籍へ入り、実父の苗字を名乗ることはできません。
  • 亡くなった実父の苗字へ戻したい場合は、戸籍法107条1項による氏の変更許可を家庭裁判所へ申し立てる方法を検討します。
  • 氏の変更が許可されるかは、現在の苗字になった経緯や実父の苗字へ戻したい事情、不当な目的がないことなどを踏まえて個別に判断されます。

この事例の整理

この事例では、子供の頃に父母が離婚し、本人は母の戸籍へ入籍して母の氏を称するようになりました。その後、実父が死亡し、本人が亡くなった実父の氏を再び名乗りたいと考えたという経過があります。

父母の離婚前 父母の離婚後、母の戸籍へ入籍 実父の死亡後
実父 A氏 A氏 A氏・死亡
実母 A氏 B氏 B氏
本人 A氏 母の戸籍に入籍
B氏
B氏

ご相談時点では、本人は母と同じB氏を称していましたが、実父はすでに亡くなっていました。そのため、亡くなった実父のA氏を再び名乗るために、どの手続を利用できるのかを確認する必要がありました。

実父が亡くなっているため、父の戸籍へ入る手続きは使えない

実父が生きている場合は、子の氏の変更許可を得たうえで入籍届を提出し、父の氏を称して父の戸籍へ入る方法を選ぶことができます。

しかし、この事例では、本人が母の戸籍へ入った後に実父が亡くなっていました。実父が亡くなっている場合は、この方法によって父の戸籍へ入ることはできません。

昭和23年7月1日民事甲2676号民事局長解答では、「子が父又は母と氏を異にする場合、その父又は母の死亡後は、家庭裁判所において氏変更しても、これにもとづく入籍届を受理することはできない。」とされています。

また、家庭裁判所の許可を得た時点では父が生きていても、入籍届を提出する前に父が亡くなった場合は同様です。昭和23年12月9日民事甲3780号民事局長解答では、「子が父の氏を称する旨の家庭裁判所の許可を得た後、入籍届前に父が死亡した場合は、その入籍届は受理すべきではない。」としています。

このような取扱いの背景について、大阪高等裁判所昭和49年11月15日決定(昭和49年(ラ)第312号)では、民法791条は、「現実に生活を共にする親子間で互いに同一の氏を称し、または称せしめたいという国民感情」を基礎として設けられた規定であることなどから、子の氏変更は父母が生存中であることを要すると解すべきであるとしています。

そのため、この事例では、民法791条1項による子の氏の変更許可を利用して、亡くなった実父の氏を称し、父の戸籍へ入る方法をとることはできませんでした。

本人の成年後1年以内の場合

子供の頃に子の氏の変更によって母の氏になった場合でも、本人の成年後1年以内であれば、民法791条4項によって従前の氏に戻ることができます。この手続きは、父がすでに亡くなっている場合でも利用できます。

また、この場合は亡くなった父の戸籍へ入るのではなく、本人について父の氏を称する新しい戸籍が作られます。そのため、本人が成年後1年以内であれば、民法791条4項による手続きを選ぶことができます。

参考:南敏文・櫻庭倫編著『戸籍法コンメンタール』717頁等

亡くなった実父の苗字へ戻すため、氏の変更許可を申し立てた

このケースでは、実父が亡くなっているため、民法791条1項による子の氏の変更許可の手続を利用することはできませんでした。また、成年後1年以内でもなく民法791条4項によって従前の氏へ戻る方法も利用できませんでした。

そこで、亡くなった実父の氏へ戻すため、戸籍法107条1項による氏の変更許可を家庭裁判所へ申し立てる方法を検討しました。この手続は、亡くなった実父の戸籍へ入るのではなく、本人の現在の氏そのものを実父と同じ氏へ変更する手続です。

東京家庭裁判所昭和34年11月10日審判(昭和34年(家)第11743号)では、父がすでに亡くなっているため民法上の子の氏の変更の方法を利用できない事例について、父の氏への変更が許可されています。

参考:東京家庭裁判所昭和34年11月10日審判(昭和34年(家)第11743号)
申立人は現在まで父方の氏に愛着を持ち、通称として親族つきあいも父方の氏を使用して父の氏に変更することを希望しているが、父死亡後であり民法上の子の氏変更の方法によることができない。かかる場合は氏変更のやむを得ない理由があるものと認められる。

※氏名などを省略・匿名化しています。

父が亡くなっていて民法791条によって実父の氏を名乗ることができない場合であっても、戸籍法107条1項によって、亡き父の氏へ変更することは可能であると、この裁判例は判断しています。

ただし、氏の変更には「やむを得ない事由」が必要で、どのような事情があるのかを個別に証明する必要があります。しかし、こういったケースでは、通常の氏の変更よりも「やむを得ない事由」について緩やかに判断されるものだと考えられます。

亡くなった実父の苗字への変更で家庭裁判所に説明した事情

氏の変更の許可を得るには、「やむを得ない事由」が必要です。このケースでは、単に亡くなった実父の氏を名乗りたいという希望だけではなく、現在の氏になった経緯や、実父の氏へ戻す理由と必要性を整理して家庭裁判所へ説明しました。

現在の氏がどのような経緯で定まったのか、本人にとって実父の氏がどのような意味を持っているのか、実父の氏へ変更する必要性がどこにあるのかを、戸籍上の経過や現在の生活状況とあわせて説明しました。

前述の東京家庭裁判所昭和34年11月10日審判でも、申立人が父方の氏に愛着を持っていたことに加え、通称として父方の氏を使用し、親族との付き合いでもその氏を用いていたことが認定されています。

このように、亡くなった父の氏を名乗りたいという気持ちだけではなく、その氏へ変更することについて客観的な事情や必要性があることが、重要になると考えられます。

まとめ

このケースでは、実父が亡くなっていたため、民法791条1項による子の氏の変更許可を利用して父の氏を名乗ることはできませんでした。また、成年後1年以内でもなかったため、民法791条4項によって従前の氏へ戻る方法も利用できませんでした。

そこで、現在の氏になった経緯や、亡くなった実父の氏へ戻す動機と必要性などを理由に、氏の変更許可を申し立てました。その結果、実父の氏への変更が許可されました。

実父が亡くなっている場合でも、事情によっては戸籍法107条1項による氏の変更許可によって実父の氏へ変更することができます。ただし、氏の変更には「やむを得ない事由」が必要であり、個別の事情に応じて判断されます。

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