「分籍をすれば戸籍が新しくなるので、氏(苗字)も変えられるのでは」と考える方がいますが、分籍と氏の変更は別の手続です。分籍によって、氏そのものが変わることはありません。
この記事では、分籍がどのような手続なのかを確認したうえで、分籍をしても氏が変わらない理由、氏の変更許可の申立てと分籍の関係、分籍後に親の戸籍へ戻れるかどうかについて解説します。
分籍とは
分籍とは、今の戸籍から出て、自分を筆頭者とする新しい戸籍を単独で作る手続です。分籍をすることができるのは、成年に達した人に限られ、戸籍の筆頭者及びその配偶者は分籍をすることができません。
分籍手続は、家庭裁判所の許可を必要とせず、本籍地又は住所地の市区町村へ届け出るだけで完結します。
分籍届の届出先や必要なものは、市区町村ごとに案内ページが用意されています。一例として、新宿区「転籍届・分籍届」で確認できます。
参考:戸籍法21条
第二十一条 成年に達した者は、分籍をすることができる。但し、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、この限りでない。
参考:戸籍法100条
第百条 分籍をしようとする者は、その旨を届け出なければならない。
② 他の市町村に新本籍を定める場合には、戸籍の謄本を届書に添附しなければならない。
参考:戸籍法101条
第百一条 前条第二項の場合には、分籍の届出は、分籍地でこれをすることができる。
分籍をしても氏(苗字)は変わらない
分籍によって新しく戸籍が作られても、氏を新たに選び直すことはできません。分籍前の戸籍に記載されていた氏が、そのまま新しい戸籍に引き継がれます。分籍は、戸籍を分けるだけの手続であり、氏そのものを変動させる効果を持たないためです。
氏に限らず、分籍前の戸籍の個人事項欄に記録されている事項のうち、現に効力を有するものは、原則として新しい戸籍にそのまま移記されます。
そのため、婚姻や養子縁組によって氏が変わった人が分籍をしても、分籍前の氏(婚姻後の氏、縁組後の氏)を名乗ったまま新しい戸籍に移ることになります。
分籍を届け出ても、氏はそれまでの戸籍で名乗っていたものがそのまま引き継がれるため、分籍によって氏を変えることはできません。氏そのものを変更したい場合は、氏の変更許可の申立てなど、氏の変更を扱う別の手続が必要です。
筆頭者ではない人が氏を変更するには、先に分籍が必要な場合がある
家庭裁判所への氏の変更許可の申立ては、戸籍の筆頭に記載されている者及びその配偶者に限られています。まだ親の戸籍にいる子どもは、戸籍の筆頭者または配偶者ではないので氏の変更許可を申し立てることができません。
そのため、成人した子が結婚等を経ずに親の戸籍に入ったまま、自分の氏を変更したいと考える場合には、先に分籍を届け出て、自分を筆頭者とする新しい戸籍を作ったうえで、氏の変更許可を申し立てるという流れを取ることになります。
分籍そのものは氏を変える手続ではありませんが、氏の変更許可を申し立てるための前提として、分籍が必要になる場面があるという点は押さえておくとよいでしょう。
参考:戸籍法107条1項
第百七条 やむを得ない事由によつて氏を変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、氏及び氏の振り仮名を変更することについて家庭裁判所の許可を得て、その許可を得た氏及び氏の振り仮名を届け出なければならない。
分籍後は原則として親の戸籍に戻れない
分籍によって親の戸籍から新しい戸籍へうつった後は、その後、原則として親の戸籍へ戻ることはできません。分籍は自分の意思で行った手続であり、分籍前の戸籍に復籍することは想定されていないためです。
もっとも、この原則には例外があります。子どもが分籍によって新しい戸籍に移動したあと、親の結婚・離婚などで氏が変わった場合は、民法791条1項にもとづいて、家庭裁判所の許可を得て親の戸籍に入る、又は親の氏を名乗ることができる場合があります。
参考:民法791条1項
第七百九十一条 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによつて、その父又は母の氏を称することができる。
まとめ
分籍は、家庭裁判所の許可を必要とせず、成年に達した人が市区町村へ届け出るだけで、自分を筆頭者とする新しい戸籍を作ることができる手続です。ただし、分籍によって氏が変わることはなく、分籍前の戸籍で名乗っていた氏がそのまま引き継がれます。
まだ親の戸籍に入ったままで、戸籍の筆頭者でも配偶者でもない人が氏の変更許可を申し立てたい場合は、先に分籍をして自分を筆頭者とする戸籍を作る必要があります。また、分籍によって親の戸籍を離れた後は、原則として親の戸籍へ戻ることはできませんが、その後に親の氏が変わった場合には、例外的に親の戸籍に入る、又は親の氏を名乗れることがあります。