性同一性障害と改名|家庭裁判所の手続きと注意点

性同一性障害を理由にする改名は、平成の半ばまでは許可されずらく、通称を理由にする改名を利用していたと思われます。ところが、平成20年頃から高等裁判所で、性同一性障害であることを理由に名の変更が認められ、簡単に改名の許可を得られるようになりました。

しかし、2020年頃から、家庭裁判所の審査が厳しくなり、以前のように形式的に診断書があれば許可されるといったことは少なくなりました。

性同一性障害を理由にする改名手続き

性同一性障害を理由にする改名の手続きは、平成20年頃に高等裁判所で許可されてから、名前の変更が許可される一般的な理由になりました。

しかし、ポイントを押さえていないと却下され、取り返しがつかない事態になることもあります。

性同一性障害を理由にする名の変更の要件

性同一性障害を理由に改名するための要件は、シンプルです。

性同一性障害を理由にする改名の要件
  • 医師から性同一性障害の診断がされていること
  • 新しい名前の使用実績があること

「性同一性障害の診断がされていること」は医師の診断がされていることと、現在の戸籍上の名前を名乗り続けることが負担になることが重要です。以前は医師二人による確定診断は求められませんでしたが、担当裁判官によっては求められることもあります。
診断証の内容が不十分だと裁判所が考えている場合は、以下の診断書以外に医療機関で用意できる資料も求められます。

「新しい名前の使用実績」があることは、新しい名前を名乗って生活していることが条件になります。しかし、通称を名乗って生活していることだけを理由にする場合とは違って、期間が短く、資料の量が少なくても大きな問題にはなりません。

許可されない要素

上の要件を満たしていても、許可をされない要素がいくつかあります。

性同一性障害を理由にする改名が許可されない要素
  • 未成年者の子供が同じ戸籍にいる場合
  • 性同一性障害以外の診断が出ている場合
  • その他、一般的な不許可の理由がある場合

「未成年者の子供が同じ戸籍にいる」というのは、特に幼い子供が混乱してしまうおそれがある場合、裁判所は子供の保護を優先します。ちなみに法律上の婚姻をしていることは、性別の取扱の変更とは違い問題になりません。

「性同一性障害以外の診断」は、性同一性障害ではない診断されている場合です。また性同一性障害の診断と一緒に、精神疾患の診断がされている場合も注意が必要です。
この精神疾患が軽度であれば、問題にならないと思いますが、そうではない場合は、許可を得る事は難しいかもしれないです。また性同一性障害の診断がされないトランスジェンダーの方も許可されないです。この場合は通称を名乗っていることを理由に手続きをすることで、改名することは可能です。

「その他、一般的な不許可の理由がある場合」、新しい名前の文字が人名に使えない、性同一性障害を理由にしているものの主な目的が犯罪歴や破産歴の隠ぺいを目的にしているような場合です。

改名手続きの準備

性同一性障害を理由にする場合は、しっかりと準備をすれば、家庭裁判所の改名の許可を得る事は難しくありません。そのために以下の資料を集める事から始めると良いです。

性同一性障害の診断書

性同一性障害であることの診断書は必須です。これが用意できない場合は、改名の理由を通称を名乗っていること等に切り替えて準備をしていくことになります。

また診断書に戸籍上の名前を名乗ることで被る精神的な苦痛や初診時から診断書作成時までの経緯についても言及があるとなお良いです。

診断書以外に医療機関で用意できる資料

診断書以外に医療機関で発行される資料は必須ではありませんが、最近は裁判所から求められることがあります。

診断書以外に医療機関で用意できる資料
  • 医療機関での診療記録や通院歴がわかる資料
  • ホルモン療法の履歴がわかる記録
  • (精神科やホルモン療法等の)医療費の領収書
  • 外科手術をしている場合は手術に関する記録や明細

その他の資料

その他の資料として、通称を名乗って生活していることがわかる資料は必須です。通称を名乗って生活をしていることだけを理由に改名をする場合と違って、厳格に要求されているわけではありません。

しかし、Amazonや楽天等のネット通販の伝票のみといったことは避けた方が良いと思います。理由は、性同一性障害を理由にする改名を認められなかった場合に、通称を名乗って生活していることを理由せざるを得ず、このための資料としてバックアップとして、用意するべきだからです。

まれに友人等の意見書、推薦書といったようなものを見かけますが、裁判所の改名手続きでは意味がないので、むしろ医療機関からの資料収集に注力するべきです。

家庭裁判所の手続き

資料が揃ったら、裁判所への申立の準備です。

裁判所へ提出しなければならない書類は、申立書、現在の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)、証拠資料のコピーです。

申立書の1ページ目には、本籍、住所、氏名、生年月日と連絡先の電話番号を記入します。

2ページ目では、希望する新しい名前への変更の許可を求める旨を明記して、それ以降に具体的な理由を記入します。

具体的な理由は、1.性別に違和感を覚えた時期やきっかけ、2.新しい名前を決めた経緯、3.なぜ今申立てをするのか、の3つのポイントを時系列に沿って記入していけば良いと考えています。

不足している情報は、申立後に裁判所から問い合わせがあるので、それに適宜応えていけば、申立時点で見落としていても問題ないです。

裁判所から改名が許可されたときは、許可の審判書を持って、市区町村の戸籍窓口へ名の変更を届出ることで、戸籍上の名前が変更されます。

まとめ

性同一性障害を理由にする名前の変更は、診断書等の医療機関の資料を十分に用意できれば、改名の許可を得ることは難しくありません。けれども、これらの資料を十分に用意できない場合は、通称を名乗っていることを理由にすることも考えて、資料を準備していくべきです。

また、一度裁判所の許可を得て名前を変更すると、再度名前を変更することや元の名前に戻すことは至難です。ですので、新しい名前は慎重に検討して、医師とよく相談しながら改名手続きの準備を進めていくのが最善だと考えています。

よくあるご質問

  • 名前の変更のために、戸籍の性別を変更する必要はありますか?
    名前の変更と性別の取扱の変更は別の手続きですので、性同一性障害を理由にする改名のために性別の取扱の変更を先にする必要はありません。
  • 改名手続きの費用を教えてください。
    改名の手続きに必要になる費用は以下のとおりです。
    • 裁判所の申立手数料:800円
    • 裁判所に納める切手:600~1,700円程度
    • 戸籍代:450円
    • 診断書等の証明書代
    これ以外に専門家に依頼する場合は、専門家の報酬があります。当事務所の報酬は、「改名手続、改姓手続、戸籍訂正手続等をご依頼いただいた時の費用について」をご覧ください。
  • 改名手続きにかかる期間を教えてください。
    裁判所の手続きに要する期間はおおよそ2か月程度です。裁判所の許可を得た後、名の変更届を出して戸籍が変わるまでは3週間~1か月程度です。
  • 性同一性障害の診断書以外の資料はどういったものがありますか?
    性同一性障害の診断書以外の資料は以下のものがありえます。
    診断書以外に医療機関で用意できる資料
    • 医療機関での診療記録や通院歴がわかる資料
    • ホルモン療法の履歴がわかる記録
    • (精神科やホルモン療法等の)医療費の領収書
    • 外科手術をしている場合は手術に関する記録や明細
    この他に通称を名乗って生活していることが分かる資料も必要です。
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