戸籍の名前と性自認
戸籍上の名前が、自身の性自認とは違う場合は、これを理由に改名することが許可されるのでしょうか?
神戸の家庭裁判所
事例では、申立人は神戸家裁に、性同一性障害を理由に名前の変更許可を申し立てましたが、当初家裁は、
申立人は、医師から改名が必要とされているにもかかわらず、通常は男性に用いられる戸籍上の名を日常生活において使用せざるを得ないことで、精神的苦痛を被っているということができると認定しましたが、この申立が認められた場合、
という理由で、申立を却下しました。
- 申立人が婚姻しているので、同性婚の外観が生じる
- 職場の関係者に、軽視し得ない社会的支障、混乱が生じる
- 使用実績をみても社会的に定着しているとは言い難い
大阪高等裁判所の判断
この神戸家裁の却下について、申立人は大阪高裁に不服申立をしました。
判断の前提
大阪高裁は、
(前略)名は氏とともに人の同一性を明らかにするものであって、名を変更することは一般社会に対して大きな影響をおよぼすものであるから、これをみだりに変更することを許さないこととして、呼称秩序の安定を確保するとともに、当人に当該名を使用することによって社会生活上著しい支障があって、当該名の使用を強いることが社会通念上不当であるとか、(中略)変更後の名を使用することが当人の社会生活上必要かつ相当であると言う場合などには名の変更を認めることとし、公益と個人の利益の調和を図ろうとするのがその法意であると、前提を示しました
具体的な判断
そして、
と判断して、神戸家裁の却下を取り消して、大阪高裁は申立を許可しました。
- (男性的な名前を使用することによる)精神的苦痛を甘受するのが相当であるという事情は認められず、「当該名の使用を強いることが社会通念上不当である」場合にあたる
- 職場の関係者など、一般社会に影響を及ぼすとはいえない
- 変更後の名前の使用実績が少ないとしても、名前を変更することには正当な事由がある
使用実績が短いことで手続きをためらっている方も多いと思いますが、使用実績が短くても、正当な事由があれば、名前の変更は許可されます。
不許可になる事情
上記の条件を満たしていても、以下の事情がある場合は許可を得られないことがあります。
- 未成年者(特に幼児、小中学生)が同じ戸籍にいるような場合
- 医師の診断書が、性同一性障害ではない場合
- その他、一般的な不許可の理由がある場合
1.については、特に幼い子供が混乱してしまうのではないかと、裁判所が子供の保護を優先するようです。
2.は、確定診断でなければならないと考える裁判官もいるようですが、そうでなくても許可を得られる場合もあります。また他の診断名がつく方は許可を得ることは難しいです。
3.は、トランスジェンダーを理由にしているものの、主な目的が犯罪的や破産歴の隠ぺいを目的にしているような場合です。
Xジェンダーの場合
Xジェンダーを理由にした改名の許可は、現在のところ、判例集や書籍では見当たりません。
ですが、裁判所にXジェンダーであることを理解してもらったうえで、それが正当な理由に該当すると判断されれば、許可されると考えています。また、同時に通称の使用の条件を満たしていれば、この理由で許可を得ることは当然できます。
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